
現状と課題
歴史ある大企業の戦略子会社であるF社の各部門には、多くの優秀な人材が配置されていた。人事部門もその例外ではない。高学歴な人事の専門職が、社員約1,200名の人事情報管理と給与計算処理をパッケージソフトで行っていた。 人事業務を担当している4名は、新卒でこの会社に入社し、以来人事部門一筋で業務を行ってきた。ここまでは多くの日本企業で見ることができる光景である。
突然の変革の波
変革の波は突然やってきた。親会社の決断により、F社は事業売却されることになった。スケールメリットを生かすために、合従連衡に伴う再編が業界全体で急速に進行していることは周知であった。F社も例外ではありえなかった。 親会社が変わることによる業務見直しの要求はF社にも及んできた。人事部門においても、経験豊富なT氏がトップとして送り込まれ、人事戦略のあるべき論から日常人事業務の効率化まで、幅広い議論が進められることになった。T氏は、早速人事部の4人とプロジェクトチームを組んだ。そして現状を冷静に分析していくにつれ、プロジェクトを進める上での最大の課題が明らかになった。
それは、人事部門の業務自体が4名の担当者個人に依存しきっており、完全なブラックボックスとなっていることだった。他部門からやってくる管理職では、新卒から人事部一筋でやってきている彼らには到底太刀打ちできない。それはT氏にしても同じだった。 治外法権ともいえる業務範囲をなくして人事部の改革を進めなければならない。しかし、彼ら以外に業務をわかっている人材は一人も社内にいない。T氏のジレンマは深刻だった。
ラクラスの提案
「人事部の改革は待ったなし。そのためには業務を一刻も早く『見える化』しなければならない。両立させる良い手はないものか」と悩んだT氏は、いくつかの人事コンサルタント会社やアウトソーサに連絡を入れた。 相談を受けたラクラスは、これまでの業務改革とBPOの経験から、次の提案をT氏に行った。
- フルアウトソーシング(BPO)により、社内リソースを使わずに日常人事業務を遂行できる体制を整える。
- その結果として生まれる担当者4名分の社内リソースを、人事部改革のための工数に充当する。
あるいは他部署でのキャリアチェンジを図る。 - 戦略人事に必要な人事情報データベースと、可視化された業務プロセス図を作り上げることでブラックボックスをなくす。
お客様の手元に業務を残さないBPOサービス、クラウドで提供される人事情報データベース、そして導入作業の間に作り上げられる詳細な業務プロセス図を組み合わせて、ブラックボックス化の悩みを解消すると同時に、人事改革に必要な社内リソースを創出しようという提案であった。
ブラックボックス化の結果
T氏はラクラスをパートナーとして選んだ。新経営陣の承認も得られ、プロジェクトは開始された。 しかしプロジェクトは、開始当初から波乱含みで始まることになる。プロジェクトの方向性を知った4名の人事担当者が、「仕事を外部へ出してしまえば、自分の居場所がなくなる・・」と考え始めたのだ。 プロジェクトは、ラクラスがF社の現状の仕組みやデータを分析することから始まる。当然ながら詳細は担当者へのヒアリングで補わなくてはならない。
業務がブラックボックス化しているF社においては、4名の人事担当者から情報を受け取る以外に手段はない。しかし彼らの対応は、協力的なものではなかった。 これは、日常人事業務を4人に任せたままで、ブラックボックス化を見過ごしてきた結果として、必然的に起こってくる現象である。給与計算をはじめとする日常人事業務の担当者は、その仕事の性質上、どうしても変化を嫌うようになる。機能している仕組みを、なぜ今、変えなければならないのかという心理が働いてしまうのである。 これを理解しているラクラスのコンサルタントは、給与台帳から計算式を推測することも含め、手持ちの資料からできる限りの情報を引き出し、T氏とともにプロジェクトを進めていった。
成果

その一方でT氏とラクラスは、4名の担当者への説得を粘り強く続けていった。会社が不退転の決意をもってプロジェクトに臨んでいることを説明する一方で、日常人事業務から離れることは「新たなキャリアを作り出すチャンスの到来」であることを説いたのである。 数週間も経過したころ、4名の中に変化が現れ始めた。置かれた状況を正確に理解するとともに、この機会をポジティブにとらえようという意識が芽生え始めたのである。
人事の専門性に加えて、他の分野での経験を積むことが、自分自身の価値を高めることにつながると腑に落ちるようになってきた。 このような気持ち変化は、そのままプロジェクトへの協力姿勢につながった。導入作業は加速していった。
その結果、F社はほぼ予定通りに人事業務をBPOに移行することに成功した。その後も、管理する人事情報の拡張やその戦略的活用へと、ラクラスの活用範囲を広げている。また定量的な成果として、約35%のコスト削減を達成することができた。 4名の担当者の能力再開発プログラムも順調に進んだ。新たな部署で重要なポジションを任されながら、現在も全員がF社で活躍している。

















