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KITAHARA COLUMN キタハラコラム

第5回 マイナンバーの「利用」マイナンバーのリアル

マイナンバーの「利用」と聞くと、何か便利なことでもありそうな気がしてきますが、残念ながらそれは単に気のせいです。マイナンバーは行政機関が名寄せに使うためのものです。マイナンバーの利用とは、行政機関が名寄せできるように、行政機関が定める帳票にマイナンバーを記入して、行政機関に届け出る業務プロセスを指すに過ぎません。

マイナンバーの利用が許されるのは社会保障と税に関する業務だけですから、ここでいう行政機関とは厚生労働省と国税庁ということになります。広報資料「マイナンバー 社会保障・税番号制度 民間事業者の対応(平成27年5月版)」を見てみましょう。10~15ページには国税関係の情報が、16~22ページには厚生労働省関係の情報が掲載されています。ここにマイナンバーに関係する帳票が列記されています。

マイナンバーに関係する帳票とは何か?

マイナンバーに関係する帳票とは、すなわち個人番号の記入欄が追加される帳票です。具体例として源泉徴収票を見てみましょう(前掲の広報資料の12ページ)。「支払を受ける者に加えて、控除対象配偶者や扶養親族等の個人番号の記載が必要」と書かれています。マイナンバー以外の記載事項も増えるため、帳票の大きさがA6横からA5縦に変わります。

社会保障関係書類も同じです。広報資料の17ページを見ると、雇用保険に関しては2016年1月1日提出分から、雇用保険被保険者資格取得届や資格喪失届の帳票に「個人番号を追加予定」であると書かれています。ちなみに、健康保険と厚生年金保険に関する帳票への個人番号の追加は2017年1月1日提出分からです。

新たに登場する帳票はない

税関係にしろ、社会保障関係にしろ、新たに制定された帳票はありません。現在でも使われている帳票に個人番号欄が追加されるだけです。つまり企業は、これまでと同じようにこれらの帳票を作成し、そこに個人番号を記入すればよいのです。社内帳票を洗い出したり、この部分の業務プロセスを見直したりする必要はありません。そのためにコンサルタントを雇う必要もないし、マイナンバー管理の専門部署を作る(!?)必要もありません。

人事情報システムを開発し、かつそれを用いて人事BPOサービスという実務を提供している私からみると、マイナンバー管理の課題はマイナンバーの「利用」にはありません。マイナンバーという12桁の数字の「保管」でもありません。難しいのは、マイナンバーを記載した帳票をどうやって「保管」するのかということと、これをどうやって法定保存期間到達後に「廃棄」し、その「記録」を残すのかということです。

その意味でも、12桁の数字を預かるだけのクラウドサービスにどれほどの価値があるものか、私自身は測りかねています。課題は、マイナンバーを記載した帳票(あるいは電子申告用のCSVデータ)の管理にあると私は思います。

大量印刷は源泉徴収票と支払調書だけ

広報資料を見てもう一つ分かることは、マイナンバーを記載する帳票の中で大量に印刷されるのは源泉徴収票と支払調書だけだということです。算定基礎届、月額変更届、賞与支払届といった社会保障関連の帳票においてマイナンバーの記載が求められるのは70歳以上の人だけです。

マイナンバーを安全に取り扱うためのコツは、マイナンバーが露出する機会を限界まで減らしていくことです。人的にも、物理的にも、情報技術的にも、そして時間的にもマイナンバーに接触する機会を可能な限り切り詰めていくことが重要です。

つまり、行政機関に提出する最後の最後の段階で、帳票にマイナンバーを記入するこという業務プロセスを作り上げることが大事です。大量に印刷する源泉徴収票や支払調書であれば、そこに記載する全てのデータを確定した後で、いざ印刷してみるとマイナンバーが記載されているという業務プロセスが望ましいと思います。そうすれば、その作業を行う人も、場所も、情報システムも、そして時間も限定できるでしょう。

社会保障関係の書類でマイナンバーを記載するのは、個別の1件1件の帳票になります。その帳票に記載すべきデータを全て記載し、いざ行政機関に提出する直前に、マイナンバーを参照し記載することが望ましいと思います。

行政機関からの通知にマイナンバーは記載されない

さて、前掲広報資料22ページ(厚生労働省の管轄分)には、次のような記載があります。
事務負荷や情報漏えいリスクなどの観点から行政側からお知らせする通知書類などにはマイナンバーは追加しません」。
これはとても良いことですね。

一方で気になる情報もあります。当社が6月上旬に総務省に電話で確認したところ、住民税額決定通知書と個人通知書にマイナンバーが記載されるという案が現在検討されているそうです。やめてほしいと思います。

Tips 1:本人宛の源泉徴収票と支払調書へのマイナンバーの記載

今回から、マイナンバーに関連した解説をTipsとして掲載していきます。初回は、「本人宛の源泉徴収票と支払調書にマイナンバーを記載するのか」について。税務署宛のものには当然ながら記載しなければなりません。

結論から申し上げます。法令上、従業員本人に交付する給与所得の源泉徴収票には、従業員本人及びその扶養親族のマイナンバーを記載しなくてはなりません。一方、本人に交付する支払調書にはマイナンバーを記載してはいけません。まったく逆の対応なので気を付けてください。

この差はどこから出てくるのでしょうか?

まず、従業員本人に給与所得の源泉徴収票を交付する場合は、「所得税法施行規則第93条に基づいて、その本人及び扶養親族の個人番号を表示した状態で本人に交付することとなる」とされています(「『特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)』及び『(別冊)金融業務における特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン』に関するQ&A」A5-2〔10頁〕)。

そして、改正後の所得税法施行規則93条1項1号・7号では、「給与等の支払をする者は、……源泉徴収票二通を作成し、一通をその給与等に係る所轄税務署長に提出し、他の一通をその給与等の支払を受ける者に交付しなければなら」ず、源泉徴収票には、その支払を受ける者、控除対象配偶者及び控除対象扶養親族の個人番号を記載するものと規定しています。

つまり、所得税法施行規則の定めにより、マイナンバーが記載された源泉徴収票を1通、本人に交付しなくてはならないということです。

一方、支払調書のほうは「そもそも論」までさかのぼらなければなりません。そもそも番号法は「本人に対する特定個人情報(個人番号を含む個人情報)の提供も原則として禁止」しているのです。源泉徴収票とは異なり、支払調書は本人に対して交付することが法令上義務付けられていませんから、個人番号を記載してはならないということになります。

例外は、本人から個人情報保護法第25条に基づく開示の求めがあった場合です。この場合には、当該本人の個人番号を記載した支払調書の写しを交付できるとされています。