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マイナンバーの
リアル
マイナンバーの提供とは、「法的な人格を超える特定個人情報の移動」を意味します。法令上認められる場合を除き、何人も他人のマイナンバーの提供を求めてはならないということが番号法の原則です。収集したり保管したりできないだけではなく、「提供を求める」ことも禁じられていることにご注意ください。そして企業は、個人番号関係事務を実施するために従業員や支払先のマイナンバーの提供を求めることを法令上認められています。
企業は、従業員や支払先にマイナンバーの提供を求めるにあたり、具体的な利用目的をあらかじめ明示しなければなりません。例えば、
・源泉徴収票作成事務
・健康保険・厚生年金届出事務等
・支払調書作成事務
といった具合です。
従業員の区分によって明示する利用目的が異なることも起こり得ます。短時間勤務の契約社員には源泉徴収票作成事務を利用目的として明示し、正社員にはこれに加えて社会保障関連の利用目的を明示するといった具合です。
法律は、企業が個人番号関係事務を実施するために従業員や支払先に対してマイナンバーの提供を求めることを認めています。従って、利用目的に関して従業員や支払先の合意を得る必要はありません。明示するだけで十分です。
利用目的を超えてマイナンバーを利用する必要が生じた場合には、当初の利用目的と「相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲内で」利用目的を変更して、本人への通知等を行うことにより、変更後の利用目的の範囲内でマイナンバーを利用することができるとされています。
例えば、短時間勤務の契約社員として入社した社員が、勤務時間が増えたために雇用保険にも加入することになったようなケースです。ガイドラインは、給与所得の源泉徴収票作成事務のために提供を受けた個人番号を、雇用保険届出事務等に利用しようとする場合は、利用目的を変更して本人への通知等を行うことにより、雇用保険届出事務等に個人番号を利用することができると定めています。このケースは、相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲内にあり、その場合には本人への通知等を行えば十分ということになります。
取り扱いが難しいのは、財形貯蓄・年金、団体保険、持株会、ストックオプション等、金融機関等からの委託を受けて従業員のマイナンバーを収集するケースです。前回もちょっと触れましたが、この実務は実に悩ましいのです。
まず、従業員の入社時点においては、財形貯蓄・年金、団体保険、持株会、ストックオプション等を利用目的として明示することはできません。なぜなら、社員がこれらのベネフィットに加入するかどうかは入社時点では不明だからです。従って、利用目的を明示するタイミングは、これらのベネフィットへの加入募集の時点ということになります。
ここで問題となるのは、これらのベネフィットへの加入手続きに企業が保管しているマイナンバーを利用できるかということです。その判断基準は、入社時点で明示している源泉徴収票作成事務等の利用目的と、これらのベネフィットへの加入手続きという利用目的が、相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲内にあるかどうかになります。
残念ながら答えは「否」です。マイナンバーを利用する主体が違うわけですから、両者が相当の関連性を有するとは認められません。従って、これらのベネフィットの加入手続きにおいては、企業は社員のマイナンバーを再度収集することになります。収集するのであれば、再度本人確認が必要になります。
従業員に対しては、雇用契約の締結時点でマイナンバーの提供を求めることができます。これは必ずしも入社日を意味しません。
例えば、応募者が確実に雇用されることが予想される場合には、その時点でマイナンバーの提供を求めることができます。正式な内定通知がなされ、入社に関する誓約書が提出された時点等です。つまり、企業が個人番号関係事務を実施することが、十分な蓋然性をもって予測された時点で、マイナンバーの提供を求めることができます。
では、内定者からマイナンバーを収集したにもかかわらず、実際には入社しなかったらどのように処理するのでしょうか。入社しないのであれば、企業は個人番号関係事務を実施しませんから、企業は速やかにマイナンバーを廃棄し、廃棄の記録を保管しなければなりません。
社外の支払先に対しても同様です。社宅のオーナーからのマイナンバー収集は、不動産賃貸借契約書が締結された時点からになるでしょう。社外講師であれば、講演を依頼しそれを引き受けてもらった時点からになるでしょう。しかし、講演が実際には行われないという不測の事態も起こり得ます。講演終了後に銀行振込先口座等を確認する際に、マイナンバーの提供を依頼する実務が適切なのではないかと思います。