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KITAHARA COLUMN キタハラコラム

第14回 利用(その2)マイナンバーのリアル

第14回では、「既に開始されている利用」の続きとして、健康保険、持株会、財形貯蓄、年金基金に関連した解説を行います。

1. 健保組合による既存加入者のマイナンバー収集

現在、健康保険組合から加入事業所に対して、健康保険に既に加入している被保険者と被扶養者のマイナンバーを提供するようにとの依頼が届き始めています(以下、被保険者と被扶養者を合わせて加入者と呼ぶことにします)。かねて「平成28年1月以降いずれかの時期に、既存の従業員・被扶養者分の個人番号を、健康保険組合・ハローワークに報告するよう依頼がある予定」との告知が出ていました。今般の健保組合からの依頼は、この告知に対応するものと考えられます。

健保組合は、加入事業所からマイナンバーを収集する方法を定め、その方法を「ターンアラウンド方式」と名付けています。具体的には、健保組合は紙か電子媒体で加入事業所に加入者情報を提供します。加入事業所はこの加入者情報にマイナンバーを付加して健保組合に返送します。

第13回で指摘したように、ここでも課題になるのは「公開可能なIDとのひも付け」です。健保組合が用いている公開可能なIDは、事業所記号と被保険者番号です。健保組合は、事業所記号を「記号」、被保険者番号を「番号」と短縮して呼んでいます。健保にとっての番号が、企業にとっての公開可能なIDである従業員番号を一致していれば、ターンアラウンド方式に対応するのは容易です。しかし、異なるのであれば、番号を従業員番号にひも付け、従業員番号をマイナンバーにひも付けるという2段階の作業が必要になります。

被扶養者に関しては、従業員番号に家族名、生年月日、性別を組み合わせたものに、マイナンバーとひも付けるといった作業が必要になります。実際にこのひも付け作業を行ってみますと、健保組合から提供される家族名や生年月日等の加入者情報が、企業の人事データベースにある家族名や生年月日と異なっていることがあります。健保組合は、企業が過去に提出してきた被保険者資格取得届や被扶養者異動届から手作業で加入者情報を作ってきたわけですから、ズレが生じるのは避けられません。この機会に、健保組合の加入者情報を訂正することになります。

第13回で述べたように、マイナンバー管理サービスの提供企業の中には、専用IDを対象者全員に振ることを必須条件としているところもあります。このようなサービス提供社に業務委託している企業は、記号・番号を従業員番号にひも付け、従業員番号を専用IDにひも付け、専用IDをマイナンバーにひも付けるという3段階の作業が発生するはずです。被扶養者へのマイナンバーのひも付けに関してはさらなる工夫が必要になることは容易に想像できますが、その説明は省略いたします。

2. 個人番号届を準備している健保組合もある

2017年1月以降は、加入事業所は健保組合にマイナンバーを記載した被保険者資格取得届や被扶養者異動届を提出するのが原則になります。しかし、ここでも第13回で述べた「タイミングの問題」が発生します。

企業は、従業員が入社したタイミングで被保険者資格取得届を健保組合に提出しなければなりませんし、従業員に子供が生まれたタイミングで被扶養者異動届を提出しなければなりません。提出しなければ健康保険証を発行してもらえませんので。

しかしながら、企業がマイナンバーを収集するのは従業員が入社した後ですし、子供が生まれた従業員が最初にやるべきことは出生届を市区町村に出すことです。マイナンバーの通知カードが届くのは、はるか先の話です。その間、健康保険証なしで過ごすことはできません。これがタイミングの問題です。

そこで幾つかの健康保険組合では、「個人番号届」という届出書類を設定することを公表しています。この届出書類の役割は、雇用保険における「個人番号登録・変更届出書」と同じです。企業は、被保険者資格取得届や被扶養者異動届とは別に、記号・番号とマイナンバーをひも付けた個人番号届を提出することができます。運用の詳細については、まだこれから変化があるはずですので、情報収集を怠らないでください。

3. 持株会、財形貯蓄、年金基金

持株会、財形貯蓄および年金基金に関しては、マイナンバーの記載が必要になる税関連の届出書類が既に登場してきています。持株会に関しては、証券会社に会員番号とマイナンバーの組み合わせを一括して提出する作業が始まっています。財形貯蓄に関しては、税関係の届出書類にマイナンバーを記載するよう要求されます。また、退職に際しては、退職所得申告書にマイナンバーを記載するよう年金基金から要求されます。

これらの書類については、個人番号届を別に提出するといった抜け道は設けられていません。提出する書類にマイナンバーを記載し、記録を保管するといった作業が発生します。

「既に開始されている利用」はここまでです。次回は、「法定調書における利用」について解説する予定です。