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KITAHARA COLUMN キタハラコラム

Vol.003 大企業の社保業務は e-Gov電子申請で効率化せよラクラスニュースレター

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社保電子申請クラウド+BPO「Matsu」の単独サービスとしての提供は終了いたしました。
このサービスは引き続き、当社が提供する
人事クラウド+BPOサービス『Kusunoki』(給与計算アウトソーシングサービス)の機能として提供してまいります。

1. 新しいe-Govは「使える!」

2001年1月、IT戦略本部はIT国家戦略を策定し、「2003年までに、国が提供する実質的にすべての行政手続きをインターネット経由で可能とする」ことを宣言した。各省庁には、管轄下の事項に関する各種の申請手続を電子的に受け付ける仕組みの構築が指示された。これが電子政府(e-Gov)構想の始まりである。

この指示に従い、厚生労働省においても社会保険・労働保険等の届出を電子的に受け付ける仕組みの開発が行われた。しかし実現した機能は、残念ながら企業の業務効率化に役立つとは言い難い「使えない」サービスであった。それ故、他省庁(たとえば国税庁が提供するe-Tax)に比較して利用率は低迷した。

2011年8月、IT戦略本部は「新たなオンライン利用に関する計画」を決定し、「サービスの品質向上に重点を置いたオンライン利用の改善」および「業務プロセス改革の推進」を行うことを表明した。
そして2015年4月、厚生労働省は複数の届出をxmlファイルで一括してアップロードできるAPI(Application Program Interface)の提供を開始した。2017年4月末現在、25社の製品・サービスが総務省の最終確認試験に合格し、API対応ソフトとして認められている。当社サービスもその1つである。

API対応ソフトの社保業務効率化への効果は劇的であった。社会保険・労働保険等の届出にかかる工数は大幅に削減された。それは特に大企業において顕著であった。雇用保険取得・喪失の100件の届出を行うときの作業工数は実に1/10にまで減少した。
自信をもって申し上げたい。新しいe-Govは「使える!」と。本稿では、e-Gov電子申請を有効に使うための条件について考察する。

2. All Digitalを実現

なぜ厚労省e-Govは「使える!」へと変貌を遂げたのか。答えは当ニュースレターでお馴染みの規模の経済にある。

旧e-Govは、これまで企業が紙の申請書に記入してきた事項を、インターネット上の電子申請画面に手入力するというインタフェースから始まった。企業は、自社の人事給与システムから必要なデータを出力し、それを1件1件、画面に手入力しなければならなかった。
届出件数の少ない中小企業であれば、「紙書類を持ち込むよりは便利」と評価したかもしれない。しかしこのインタフェースは、届出件数の多い大企業の効率化にはまったく役立たなかった。1件入力するのに10分かかるのであれば、100件の入力には必ず1,000分を要するのである。規模の経済は一切働かない。
それほどの工数をかけるぐらいなら、大企業が自社で保有している人事給与システムから所定の申請書を印刷して届出した方が、はるかに迅速で経済合理的である。旧e-Govは大企業に浸透しなかった。期待をもって研究した大企業ほど、落胆は大きかったように思う。

もしも大企業が使うようになれば、それは厚労省の目指す「e-Govの利用率向上」に大きく貢献するはずである。ファイル一括アップロードAPIを備えた新e-Govは、その期待にしっかりと応えている。API対応ソフトは、複数の届出データを一括してアップロードすることができる。1件アップロードしようと100件アップロードしようと、かかる工数に差はない。ITによる規模の経済がここに実現する。
給与計算のバッチ処理は、ITによる規模の経済が有効に機能する古典的な例である。計算処理にかかる時間は、100件であろうと10,000件であろうと有意差はない。
しかし給与計算のバッチ処理以外では、規模の経済が効かない工程も数多い。例えば、従業員からの1件1件の紙書類を手入力するという工程は規模の経済が効かない。ラクラスは、ワークフローソフトをクラウドで提供することで、入力工程を規模の経済が効くものに作り変えた。

残課題は、出力工程だった。1件1件の紙書類を作成して届け出る(あるいは画面に手入力する)という社会保険手続は、最後に残る非効率な工程だった。APIは、この出力工程における規模の経済の実現を促した。API対応ソフトの稼働をもって、当社が標榜する「All Digital(入力から出力まですべてデジタルで処理する)」は実現した。

3. 作業工数1/10のケースも

当社は、2016年9月にAPI対応ソフトの提供を開始した。利用いただいている企業の規模は、従業員数100名から12,000名までと幅広い。ここで利用実績から見えてきた導入効果について紹介させていただく。いずれのコメントを見ても、期待以上の成果を出していることがわかると思う。まず定量的効果である。

    ◎対象データを一括して届出できるため、作業工数が大幅に削減された。
     雇用保険取得・喪失手続において100件の届出を行う場合、作業工数は1/10になった。
    ◎書類の郵送が無くなり、印字・押印・封入の工数、および郵送費がゼロになった。
     郵送や書類の持ち込みにかかる時間がなくなり、公文書を取得するまでの
     期間も短くなった。
    ◎離職票に記入する賃金や日数を自動計算する機能により、離職票作成にかかる
     作業工数が、1件あたり1/5になった。
    ◎公文書およびコメントが発行されたことを自動的に確認し、所定のフォルダに
     ダウンロードする機能により、この工程の作業工数がほぼゼロになった。
    ◎喪失の届出において、期日になったタイミングで自動的に届出を行う予約機能により、
     退職から届出までのタイムラグがゼロになった。
    ◎公文書がpdfファイルとなったため、社員や退職者に迅速に提供できるようになった。
     印字し郵送するという作業工数がゼロになり、かつ誤送付等のリスクが減少した

続いて定性的効果を記す。

    ◎24時間いつでも申請できる。窓口が開いている時間に持ち込む手間がなくなった。
    ◎届出の状況が確認できる。申請漏れがないか等の確認が容易になった。
     また社員や退職者からの進捗の問い合わせに迅速かつ正確に回答できるようになった。
    ◎マイナンバーの取り扱いに対する安全管理措置が強固になった。

4. 大企業ほど効果は大きい

利用実績をさらに詳しく分析すると、「届出数が多い企業ほど、API対応ソフトによる業務効率化の恩恵が大きい」ことが改めて明確になった。

紙書類による手続きにおいては、1件の書類作成・捺印・郵送に15分かかるのであれば、100件処理するためには必ず1,500分を要する。しかしAPI対応ソフトを用いれば、100件の処理に必要な時間は150分になりうる。作業工数が1/10になるということだ。
では、1件だけ処理するのにかかる時間が15分から1.5分に短縮されるかといえば、そうはならない。「人事給与システムから取り込んだデータを、API対応ソフトを起動して届出する」という工程に変わりはないからである。取り込むデータの数が多ければ効率的になるし、少なければ非効率にもなりうる。届出数という分母が多い大企業ほど、ITによる規模の経済の恩恵を受ける。
逆に、それだけの届出数がない企業では規模の経済が機能しない。中堅・中小企業にとっては、電子申請画面に1件ずつ手入力する方が、API対応ソフトを購入して習得するよりも経済合理的かもしれない。

5. 大企業の特性に対応する

ラクラスのAPI対応ソフトは、大企業ならではの特性を考慮して設計されている。

    大企業の特性
    1. 大企業は、自社で既に人事給与システムを保有している。
    2. 大企業は、高いセキュリティ基準を自社にもベンダーにも要求する。

順に説明していこう。

1. 自社で人事給与ソフト等を既に保有している
まずAPI対応ソフトと企業が保有する既存の人事給与システムとの関連を説明する。API対応ソフトは、企業の人事給与システムから届出に必要なデータを受け取り、またマイナンバー管理システムから対象者のマイナンバーを受け取る。そしてこれらのデータから生成したxmlファイルをe-Govにアップロードする。
ラクラスのAPI対応ソフトの特長は、企業が保有する人事給与システムからデータを受け取るための柔軟なインタフェースを準備していることである。企業は、人事給与システムから届出する対象者を抽出し、必要なデータをファイルに出力すればよい。出力したファイルをAPI対応ソフトにアップロードすれば作業は完了する。
ラクラスは、「大企業向けの人事クラウドとBPOサービス」を本業としている。API対応ソフトについても、大企業ならではの要求事項を理解しこれに対応することで、既に多くの効率化事例を作り上げている。

2. 高いセキュリティ基準を自社にもベンダーにも要求する
ラクラスは、セキュリティに関する大企業の厳しい要求事項を明確に理解し、これに対応してきた。マイナンバー管理サービスにおいても、当社の安全管理措置に十分な信頼をいただいた結果として、150企業グループ50万人以上のマイナンバーをお預かりしている。

厚生労働省のe-Gov電子申請は、API対応ソフトの登場により大幅な業務効率化を実現できるものとなった。その恩恵を最大限に受けるのは大企業である。自社が保有する情報システムをそのまま生かすことができ、セキュリティ基準を満たすことのできるラクラスのソリューションを是非研究いただきたい。人口減少社会における有効な人事インフラになるはずである。