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KITAHARA COLUMN キタハラコラム

第11回 タレマネ日米比較論キタハラコラム

1. 市民権を得た「タレマネ」

タレントマネジメント機能への要望が高まっています。

私は10年弱の間、カリフォルニアのシリコンバレーの企業で働いていました(※1)。そこで学んだのは、米国企業の人事部のミッションは「attraction and retention」という一言に集約されるということです。米国企業の人事部で働くアメリカ人に、「人事部のミッションって何?」と尋ねると、彼/彼女らの全員が迷いなく「すべての人事戦略や施策は、優秀な人材を惹きつけ(attraction)、働き続けてもらう(retention)ためにある」と言い切っていました。人口減少社会を迎えて人手不足に悩む日本企業の人事部も、この言葉に深く頷くのではないでしょうか。

優秀な人材がモチベーション高く働き、最高のパフォーマンスを発揮し続けるためには、適材適所の組み合わせを見つけ出す必要があります。この実現のためには、人材ごとに異なるタレント(能力)を様々な視点から把握する、将来のキャリアデザインを示してその企業で働き続けるモチベーションを上げる、あるいは不足しているタレントを解消するための教育プログラムを提供する、といった人事施策が必要になります。これらの人事施策をタレントマネジメントと呼びます。情報システムの側面からタレントマネジメントの実現を支援するのが、タレントマネジメント機能です。

昨今では「タレマネ」で通じるぐらい市民権を得てきたタレントマネジメントですが、その概念は日本と欧米で大きく異なっています。概念が異なるわけですから、日本の人事情報システムが提供するタレントマネジメント機能なるものと、欧米の人事情報システム(SAPやWorkday等)が持つタレントマネジメント機能とは、その根本の部分で差異があります。

この違いを理解せずに欧米のシステムを導入しようとすると、日本の組織にとって極めて使いにくいものになります。あるいは導入そのものが困難に突き当たります。

一方の日本のシステムは、現在多くのベンダーが「我こそがタレマネ」と名乗りを上げている状況です。中には、評価業務が簡単になる、顔写真が見えるようになる、といった単機能の自称タレマネも数多くあります。本稿で述べるタレントマネジメント機能を実現している日本のシステムは、私が知る限り、まだありません。

今回のキタハラコラムは、タレマネ日米比較論を通じて、ラクラスが新たに開発したフレームワーク「SQN」が実現するタレントマネジメント機能を紹介したいと思います。

※1:6年弱を日本企業の米国子会社の人事リエゾンとして、3年間を米国企業の日本子会社の管理本部長として働いていました。日本企業の米国子会社も、日本子会社の米国本社も、シリコンバレーにありました。

2. タレマネと弁証法

日本の人事情報システムと欧米の人事情報システムとの最も大きな違いは、「ポジション」という概念・機能の存在です。日本のシステムでは、組織と社員を直接結びつけています。一方、欧米のシステムでは、組織はポジションと結びついています。そしてそのポジションに社員が当てはめられるという構造をとっています。

ポジションは、そのポジションに当てはめられる人材に支払われる報酬予算や、そのポジションで必要となるタレント等の情報をもっています。ポジションとは、いわばそのポジションに就く人材のあるべき姿(理想像)を示しているのです。

世界最大のハイテク企業の一つである米国A社は、SAPによる人事情報システムを構築しています。人事情報システム上のポジションにはすべてIDが振られ、そのポジションの椅子にはそのIDを印刷したシールが貼ってあるのだそうです。ですから、A社が他社を買収したときに最初に行う作業の一つは、買収した会社の組織図のすべてのポジションに、A社のIDを割り当てることだと伺いました(椅子にシールを貼るのも最初の作業なのかは、聞きそびれました)。

ポジションの概念を理解する上で、椅子の話はとてもわかりやすいと思います。企業は様々なデザインの椅子を用意していて、最もフィットした社員がそこに座るのです。その社員が去っても、椅子はそのまま残ります。そして新たに採用された社員がその椅子に座ります。

新たに組織が立ち上げられれば、そこに当てはまる社員はまだいないとしても、まずポジションが設定されます。社員の名前の代わりに、TBH(To Be Hired)と表示されたりします。社員が当てはめられているかいないかに関わらず、「あるべき姿」であるポジションは存在するのです。

さてここからがタレントマネジメントの話です。ポジションは、そのポジションに要求されるタレントの情報を持っています。これはいわば「理想のタレント」です。一方で、そのポジションに就く人材も、その人材に固有のタレントをもっています。こちらは「現実のタレント」です。理想と現実の間には、当然ながらギャップがあります。このギャップを解消する作業を支援するのが、欧米のシステムにおけるタレントマネジメント機能です。

この考え方は西欧の哲学と深いつながりがあることを感じます。ヘーゲルの弁証法は、対立や矛盾を認めた上で、その統合により一層高い境地に進むことができることを提唱しています。高い境地に進むための第一歩は、暗黙となっている対立や矛盾を明確に指し示すことです。

理想と現実の間に存在するギャップを明確にする機能、そしてこのギャップを解消し理想と現実を統合させる機能が、欧米のシステムにおけるタレントマネジメント機能です。

3. 日本独自の発展を始めるタレマネ

グローバル展開が進んでいる企業は別として、欧米企業のような理想像を明示的に定義している日本企業は少ないでしょう。ボトムアップ文化である日本にとって、未来は今日の努力の積み重ねの結果です。「5年後になりたい自分を考える」という習慣も増えては来ましたが、日本人の普遍的な行動になっているとは言い難いと思います(※2)。

そのような日本企業が欧米のシステムを導入しようとすると、「ポジションをどう扱うのか」という問題に直面します。なぜなら欧米のシステムにおいては、ポジションを定義しない限り、社員を組織に紐づけることができないからです(※3)。この問題を迂回しようとして、欧米のシステムが持つ本来の能力を発揮させないまま使っている日本企業は数多いと思います。

一方の日本のシステムは、欧米のような哲学をもって作られているわけではありません。自称タレマネ機能の多くは、欧米のシステムが持つ表層的な機能の一部を実装しただけのものになっているように思えます。導入は容易かもしれませんが、企業が期待するタレントマネジメントを支援できるかは未知数です。

こうした中、欧米の哲学とは異なる、極めて日本的な発想として、「ボトムアップによるタレントマネジメント機能」を求める動きが出てきたように思えます。

次の図を見てください。欧米のタレントマネジメント機能は、理想と現状とのギャップを把握し、その解消のために人材情報を収集し活用しようとするものです。そこには、「教育によってギャップは解消可能だ」という信念が、企業の側にも社員の側にもある気がします。

一方、日本的なタレントマネジメント機能では、理想像を定義することに固執せず、「現在の人材情報を収集し蓄積する機能」が求められています。そしてそこで見つかったタレントを活用しようとします。

日本企業にとって、ポジションごとに個別の理想像を定義するのはなかなか困難です。しかし日本企業は、その職種、階層、あるいは年齢層といった大きな単位に対する理想像はもっています。現状との間に差異があれば、これを教育等で解消しようとしますが、個人単位の教育というよりは、職種別教育や階層別教育へと進む傾向が強いように思えます。その分、「教育で解消可能」という意識は、欧米と比較すると弱いように思えます。

とはいえ、欧米発祥の制度を、実に日本的ともいえる制度に変化させて根付かせるのは、日本企業の得意とするところです。今回が初めてではありません。1990年代に起きた「年功序列から成果評価への移行」の際に、日本企業はアメリカのMBO(Management by Objectives)制度を研究し、そこから日本的の目標評価制度を作り上げました。MBOはトップダウンが前提ですが、日本の目標管理制度はボトムアップでも機能するように変化しています。

タレントマネジメント機能も同じです。日本で求められ始めたのは、職務経歴や役職歴、達成度評価・コンピテンシー評価・360度評価等の人事評価の結果、自己申告やスキルチェックの内容、参加した教育プログラムや取得した資格、あるいは労働時間や休暇取得の状況等、その社員のタレントに関する情報をすべて一つに集約する機能、データベースとして検索する機能、およびデータベースの内容をグラフィカルに表示する機能です。

ラクラスが開発したフレームワーク「SQN」は、タレントマネジメントに必要なこれらの要件をすべて満たす人事クラウドを実現しました。タレントマネジメント機能は、限られた人材を有効に活用するための適材適所の実現を支援します。これも、人口減少社会にむけたラクラスの回答です。

※2:アメリカで暮らしていて最も辟易とするのが、「それでお前のキャリアプランはどんなものなんだ?」と質問されることでした。昨今、「5年後の自分を描け」と就職コンサルタントに言われる大学生はどのように感じているのでしょう。

※3:ポジションを設定する方法は、20世紀アーキテクチャの代表格であるSAPと、21世紀に入ってからリリースされたWorkdayとの間には差があるようです。ポジションを必要とすることに変わりはありませんが、Workdayの方が柔軟であり、SAPの方がより厳密なようです。 

4. SQNが実現するタレントマネジメント機能

タレントマネジメント機能の実現に必要な機能は、次の3つに分解できます。

  • 評価票や自己申告書を配布し回収する「ワークフロー機能」
  • すべての人事情報を一つに統合して検索・出力可能とする「統合人事データベース機能」
  • 出力をグラフィカルに表示する「BI:Business Intelligence機能」

SQNフレームワークにより開発されたラクラス人事クラウドサービスは、タレントマネジメントに必要なこれら3つの要件をすべて満しています。

また、ポジションを使って理想像をもたせることも(欧米式)、ポジションを使わずに社員と組織を結びつけることも(日本式)、いずれの方法も可能な設計になっています。欧米式と日本式を混在できますので、「海外拠点はポジションを定義し、日本国内はポジションを定義しない」といった使い方もできます。

A.ワークフロー機能
ワークフロー機能は、達成度評価・コンピテンシー評価・360度評価等の人事評価ワークフロー、自己申告・スキルチェック・アンケート等の申告ワークフロー、モチベーションサーベイ等のアンケートワークフロー、参加した教育プログラムや取得した資格等の登録ワークフロー、あるいは自分自身や部下の情報を参照するワークフローなど、企業と社員の間を流れるあらゆる人材情報を電子化します。
ワークフローの書式や経路に制限はありません。お客様ごとの要求に合わせてカスタマイズされます。

B.統合人事データベース機能
統合人事データベース機能は、ワークフローで収集された社員からの人材情報だけではなく、所属歴・資格歴・役職歴・人事評価歴・教育受講歴・プロジェクト参加歴等の発令情報、給与・賞与・インセンティブ・ストックオプション等の報酬情報、あるいは労働時間・休暇取得等の勤怠情報も、すべて一つのデータベースに蓄積されます。

データベース機能は、登録されたすべてのデータを検索・出力条件として、これらの情報を統合した多様なレポートを出力できます。いずれも、個人別・部門別・等級別・年齢別といった、経営判断に必要な切り口で出力し、様々な分析に活用することができます。

タレントマネジメントにかかる機能
組織情報管理  ・組織履歴情報
 ・マトリクス組織、委員会等管理
 ・プロジェクト情報
 ・グループ企業管理
 ・コストセンター情報
人事情報管理  ・発令情報
 ・身上情報
 ・前職・経歴
 ・資格・等級歴
 ・職務歴・役職歴
 ・教育研修受講歴
 ・プロジェクト参加歴
 ・出向管理
 ・講演・論文登録
報酬管理  ・給与・賞与管理
 ・昇降給、昇降格管理
 ・福利厚生管理
 ・カフェテリアプラン
 ・インセンティブプラン
 ・退職金制度
 ・持株会・ストックオプション管理
評価・自己申告  ・目標管理・達成度評価
 ・能力、コンピテンシー評価
 ・360度評価
 ・自己申告
 ・社外資格登録
 ・スキルチェック
人材開発  ・教育計画・実施管理
 ・年次別、階層別教育
 ・キャリア形成計画・実施
 ・e-Learning
 ・社外研修受講登録
組織開発  ・タレントサーチ
 ・タレントプール
 ・モチベーション分析
 ・サクセッション・プランニング
 ・組織診断(後継者育成)
マネジメント支援  ・レポート・ダッシュボード
 ・KPIモニタリング
 ・組織配置シミュレーション
 ・人件費シミュレーション
 ・プロジェクト人件費分析
 ・顔写真表示

C.BI機能
BI機能は、前述したレポートを、グラフィカルに表示する機能です。

人事情報システムは、「タレントマネジメントを含む人材管理」と「就業・給与・福利厚生」という2つの異なる領域をカバーすることが求められています。ラクラス人事クラウドサービスは、これら2領域を高いレベルで統合し、さらに処理の自動化を実現しています。
大企業向けの人事パッケージソフトに代わる選択肢として是非ご検討ください。