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KITAHARA COLUMN キタハラコラム

第7回 サービス・マネジメントの視点から見たラクラスキタハラコラム

対価を支払う価値がある活動

ラクラスはお客様に提供しているのは、物品ではなく、「サービス」です。

ラクラスは、BPO (Business Process Outsourcing) においては人事情報管理や給与計算というサービスを、そしてITO (IT Outsourcing) においてはワークフロー、就業管理、人事データベース、給与計算システムといったソフトウェアの機能を、お客様にサービスとして提供しています。お客様は、パッケージソフトを購入して自社で保有し運用するのではなく、ラクラスのクラウド基盤上に実装されたソフトウェアを、月額のサービス料金で利用することができます。

「サービス」という単語にはいくつかの定義があります。

「デザートは当店からのサービスさせていただきます」という場合、それは「無料」という意味でしょう。「あの店員のサービスはひどい」という場合、それはその店員の「態度」に関するものです。また「アフターサービス」という言葉には、買い求める本体ではないものの、その本体の価値を高めるための付随的な活動という意味合いが含まれています。

本稿でいうサービスは、「対価を支払う価値がある活動」と定義します。無料や値引き、あるいは態度や心持ちは意味しません。ラクラスは、人と情報システムによる「活動」を提供することによって、お客様から対価を頂戴しています。サービスの価値を継続して向上させる「サービス・マネジメント」という発想は、ラクラスにとって極めて重要です。

今回のキタハラコラムでは、物品の販売とサービスの提供の差異を明らかにしながら、ラクラスがいかにしてお客様に提供する活動の価値を高めようとしているのかを、サービス・マネジメントの視点から説明させていただきます。

さて、サービスは物品と比較して、次のような特徴をもっていると言われています。

  • サービスに形はない。
  • サービスは生産と同時に消費される。
  • サービスはお客様と協働して生産される。
  • サービスは結果だけではなく過程によっても評価される。

これらの特徴を一つずつ説明していきます。

サービスに形はない

サービスは活動であり、物品のような「形」はありません。これが第一の特徴です。形がありませんから、流通させることも、作り貯めしておくこともできません。

ラクラスでいえば、来月分の給与計算を今月中に済ませてしまい、貯めておくことはできないということです。あるいは、あふれた分だけ下請けに出して代行してもらうこともできないということです。

定められたスケジュールに従って品質の高い活動を安定して提供できるように、ラクラスは正社員雇用を採用方針の基本にしています。お客様の制度運用の細かな決まりごとまで理解した正社員が、それぞれのお客様の仕様に応じてカスタマイズされた人事情報管理や給与計算、あるいは情報システム管理といったサービスを提供します。

形がない活動だからこそ、それを担う社員との間にも長期の関係を築き上げることが重要だと、ラクラスは考えています。

形がありませんから、サンプルをお客様の会社に持ち込んで、お見せすることはできません。試しに使っていただくこともできません。街角でヒゲの試し剃りができる電動シェーバーのようにはいかないのです(古すぎ?)。

試さずに決定を下すというのは、なかなか辛いものです。初めていくレストランのサービスの良し悪しは、実際に試してみない限りわかりません。情報誌やウェブ上の口コミをいくら読んでみたところで、初めてという不安が消えることはないでしょう。

仕出しを頼めれば、料理の味はわかるかもしれません。しかし、そのレストランで楽しい時間を過ごせるかどうかは、自分で現地に行かない限りわからないのです。昔、学習参考書に出ていた「プディングの味は食べてみなければわからない(The proof of the pudding is in the eating)」、なんていう言葉を思い出します。

この不安を少しでも和らげるために、サービスの提供者は色々な工夫をしています。例えば、肩こりをほぐすマッサージサービスの提供者は、初回無料券を配ります。15分でも試してもらうことができれば、その効果のほどをお客様に評価してもらえます。効果を実感してもらえれば、継続しての利用を期待できるかもしれません。

しかし、対企業向けのサービスとなりますと、そう簡単に試すことはできません。例えば給与アウトソーシングを利用しようとする場合、アウトソーサの実力を本当に試そうとすれば、給与計算式や基本給や勤怠データをすべて入力して、担当者と会話しながら、給与計算作業を実際にやってみるしかありません。お試しにはふさわしくない工数がかかってしまいます。

形がないものを見せる試み

導入するまで評価できないというサービス評価の困難を少しでも軽減するために、ラクラスはいくつかの取り組みをしています。

まず、当社サービスを検討いただくお客様には、Webワークフローや勤怠システムを実際に操作できる、トライアルIDをお渡ししています。アウトソーシングサービスのすべてを試すことはできないにせよ、「モノ」として触ることのできる部分だけでも体感いただこうという施策です。

ラクラスのWebシステムは、マニュアルやトレーニングなしに使えるだけのユーザインタフェースを備えています。お客様には、ストレスなしに入力できる快適さをご評価いただきたいと思います。仕出し弁当の味見と同じで、まずは形ある部分だけでも実感いただこうという取り組みです。

形ないサービスの最大の評価者は、既に長年にわたりラクラスを利用いただいているお客様です。

ラクラスは、他のアウトソーサのように給与計算のバッチ処理のオプションとして、BPOサービスを提供しているのではありません。ラクラスのお客様はすべて、BPOかITOサービスの利用者です。給与計算のバッチ処理だけ利用しているお客様はいらっしゃいません。

その意味で、ラクラスは国内唯一にして最大のBPO専業アウトソーサです。

既に多くのお客様が、ラクラスというレストランの味見を済ませ、サービスの品質を体感されています。この皆様からの情報が、最も信頼のおける評価になるのではないでしょうか。

個別要求への対応

サービスに決まりきった形はありません。したがって、より良いサービスを実現するためには、お客様ごとに異なる個別の要求にお応えできなければならないと、ラクラスは考えています。

お客様ごとに異なるハードウェアを作るのは、とてもコストがかかります。すばらしい光沢を放つ手作りの家具には、かかった工数に見合うだけの値札が付いているものです。しかし、人間が提供するサービスや、ソフトウェアを用いて提供するサービスは、お客様ごとに異なる細かなチューニングを施すことが可能です。その能力を継続して向上させることが、ラクラスの設立以来の挑戦です。

ラクラスは、今日のコンピュータがもつ莫大な処理能力を、計算スピードのためにではなく、「柔軟にビジネスルールを管理する」ために使っています。いまや計算スピードは、5千人分の給与計算であっても数秒で終わります。エクセルに縦5000行、横100列ほどのワークシートを作って給与計算をさせたところで、待ち時間はさして長くないでしょう。それぐらい今日のコンピュータの計算速度は速いのです。

ラクラスは、このコンピューティング・パワーを、計算処理のためだけに使うのではなく、システムとしての柔軟性を獲得するために使っています。BRMS (Business Rule Management System) と呼ばれるこの仕組みこそが、ラクラスを特徴づける技術です。形がないサービスだからこそ、お客様ごとに異なる要求仕様に合致した仕組みを作り上げることができるのだと、ラクラスは考えています。

この点を突き詰めた結果、ラクラスは3ヶ月間という短期間内に、お客様の要求仕様に合致したソフトウェアと業務プロセスを実装できるようになりました。その秘密は、第6回キタハラコラム「なぜ3ヶ月で導入を完了できるのか」で述べた通りです。

ラクラスが、正社員を基本とする採用方針をとっているのも、お客様ごとに異なるサービスを作り上げたいからです。長くお付き合いしていく中で、お客様のご要望の奥にある意図まで理解できるようになり、より良い解決策を提示していきたいと思います。形がないサービスの品質を高めることができるのは、優秀な人材というリソースをおいて他にありません。

サービスは、生産と同時に消費される

サービスの対象が人である場合、サービスは生産されると同時に消費されるという特徴を持ちます。

マッサージサービスであれば、施術することとそれを受け取ることは、同時に進行します。レストランであれば、ソムリエがワインを注ぐのと、お客様がそれを受け取るのは、まったく同時です。

同時性があるが故に、人に向けたサービスはやり直しがききません。間違ったツボを思い切り押してしまうことでお客様に与えた痛みを、後から取り消すことはできません。

同時に進行していますから、犯してしまった失敗からお客様の目をそらすこともできません。ワイングラスを倒してしまったら、それはそのままお客様の目に触れます。

さらに人に向けたサービスの場合には、同じ場所にいることが必要条件になります。サービスの生産者と消費者は、時間と場所を共にしていなければなりません。

ちなみに、物品であれば海外の工場で作られたテレビを3ヵ月後の日本で購入することができます。場所と時間の同時性はありません。また、サービスの対象が物である場合にも、時間と場所の制約はなくなります。クリーニング屋さんに出した洗濯物を、翌日の夕方に配達してもらうことができるということです。

しかし人を対象としたサービスの場合、時間と場所が一致していることが、これまでの大原則でした。

時間と場所の制約を越える

ラクラスは、情報技術を活用することにより、時間と場所の同時性という制約のかなりの部分を解決しています。

お客様の社員の皆様との最初のインタフェースとなるのは、インターネットを通じて利用されるWebワークフローと就業管理システムです。お客様は、何時でも何処からでも、これらのシステムを通じてラクラスのサービスを利用することができます。

Webワークフローと就業管理システムは、Internet Explorer、Firefox、Safariといたブラウザさえあれば利用いただけます。OSには依存していません。つまり、あらゆるタイプのPCからはもちろんのこと、ここ数年、急速にシェアを拡大させてきたモバイル情報端末からもご利用いただけます。

たとえ海外出張中であっても、PCやモバイル情報端末から、部下のタイムカードと住所変更届を承認し、自分の経費精算書を作り上げ、目標設定シートをドラフトし、給与明細を閲覧できるということです。ラクラスの情報技術が、時間と場所に関する同時性の制約からお客様を解放しています。

システムでは対応しきれないケースに備えて、社員の皆様のためのコールセンターも準備されています。インターネットがいくら便利になろうと、最終ラインには人間がきちんと控えてお客様をサポートすることが重要だとラクラスは考えています。

コールセンターは、電話とメールでのお問い合わせに対応しています。メールを使えば、時間と場所との同時性という制限の一部は回避できます。電話であれば、場所の制約はなくなります。

ラクラスは、インターネットとコールセンターという2段構えのインタフェースを、標準サービスとして提供しています。

サービスは、お客様と協働して生産される

サービスの極めて興味深い、そしてその対応に知恵を絞る余地のある特徴は、「サービスは、お客様と協働して生産される」という特徴です。

再びマッサージを例にとります。マッサージサービスを受けるお客様は、マッサージ師の指示通りの姿勢で、じっとしていなければなりません。うつ伏せという指示に背いて仰向けになったり、じっとせずに足をバタつかせたりしていては、サービスを受け取ることができません。 ファストフードのレストランはもっと極端です。お客様は、自分で注文し、支払いし、食べ物を受け取り、自分で席を探して座ります。食事が済んだら、後片付けも自分でします。そのような協働作業をすることなしに、サービスを消費することができません。

マッサージにせよレストランにせよ、お客様はサービスの生産活動の一部を担っています。与えられた役割を手順通りにこなすことが、快適な時間を過ごせるかどうかの鍵になってきます。つまり、サービス品質はお客様の参画の仕方によっても変化するのです。

協働するための仕組み

ラクラスのアウトソーシングサービスにとっても、「協働して生産される」という特徴は重要です。

人事情報管理・給与計算サービスは、お客様の人事情報を管理し、就業時間を把握するところから、銀行振込データ、給与明細、財務会計データ、月次報告書を出力するところまで、時間の同時性をもって進行する、お客様との協働作業です。 そしてその内容は、ファストフードレストランよりはるかに複雑です。給与計算サービスは、厳密な前後関係が決められ、複雑な分岐を含み、例外的な事態への即時の対応を求められるサービスです。間違いを繰り返すことは許されず、繰り返しなされる処理結果の確認や承認記録の保持が不可欠です。

ラクラスは、お客様との協働作業を明確にするために、すべての処理の関与者、処理内容、タイムライン、制限事項等をフローチャートに可視化しています。このフローチャートは、サービスレベルアグリーメント(Service Level Agreement : SLA)の一部として、お客様に提出されます。
このフローチャートの品質は、既に当社サービスをご利用いただいている米国企業から、「SOX監査のための基礎資料として利用できるレベル」という高い評価をいただいております。

さらにラクラスは、月々のサービスの提供を通じて明らかになった課題や要確認点をリストにして、お客様と共有しています。
通常の給与計算アウトソーサであれば、正しい入力データを作成する責任はお客様にあります。計算結果が間違っていたら、「それは入力データが間違っていたからですね」と言うだけです。

それに対してラクラスは、給与計算システムに投入される入力データ(固定情報および変動情報)のすべてに責任をもちます。そしてその精度を上げるために、フローチャートと毎月のチェックリストの精緻化を続けます。お客様との協働作業を、少しでも実り多いものとするよう、改善を継続してまいります。

サービスは、結果だけではなく過程によっても評価される

本稿の最初で定義したように、サービスとは対価を支払う価値がある「活動」です。活動であるからには、結果がすぐに得られるわけではありません。ファストフードであれば15分間、マッサージであれば1時間、給与計算であれば1ヶ月間、常にいくばくかの時間が必要とされます。必然的にお客様は、結果だけではなく、結果を生み出す過程にも興味をもつようになります。

物品であれば、結果だけが評価対象になります。テレビであれば、スイッチをいれた数秒後に美しい画像と音声が流れてくれば、それで評価は完了です。エンドユーザが、中国の生産ラインまで視察して、評価の対象に含めることはありません。
サービスにおいては、最終的に獲得される結果だけではなく、結果を得るまでの過程も、お客様の評価対象になるのです。

したがってラクラスは、給与計算結果を得るまでの協働作業が、お客様にとって少しでも快適なものであるように活動を続けています。
それぞれのお客様は、正副の正社員が専任で担当いたします。担当の社員は、毎日のようにお客様と連絡を取り合い、進捗をお見せしながら、作業を進めてまいります。結果として正しい計算結果を出すだけではなく、その過程においていかなる不安をもお客様に与えることがないように、同時性を考えた活動を行います。

また細かなことですが、給与計算の回数に制限はありません。もちろん回数が少ないに越したことはありませんが、給与計算において想定外の出来事が起こることを、ラクラスは十分に理解しています。追加の給与計算を回したところで、追加料金が発生することはありません。
給与計算回数に制限があることで起こってくるお客様の不安を、ラクラスは取り除きたいと考えています。これも、過程を大事にするというラクラスの施策の一つです。

過程も含めて評価いただくためには、ご要望に対して即応することも、重要な要素となってきます。当社のコールセンターは、お客様の社員の皆様からのお問合せに直接対応しています。すべてのお問合せには管理番号が割り当てられ、クローズするまで案件管理されます。社員の皆様からは、「人事部だと離席していることがあるけど、ラクラスのコールセンターには必ずつながるし、その場で解決できる」という評価をいただいています。今後とも、解決までのスピードを上げるように、努力してまいります。
さてこれで今回のキタハラコラムもこれで終わりです。
お客様から、「ラクラスの担当者のことを、当社の社員だと思っている」という言葉をいただくことがあります。ご不安を抱かれることなく、協働で作業を行わせていただいていることを、心から感謝いたします。