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KITAHARA COLUMN キタハラコラム

Vol.001 給与・福利厚生担当者が定年を迎える「2025年問題」に人事部門は備えよラクラスニュースレター

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1. 給与・福利厚生担当者がいなくなる

1990年代初頭、バブル崩壊をもって日本の高度成長期は終焉を迎えた。企業は生き残りをかけ、日本的な雇用慣行からの離脱に取り組んだ。報酬を決定するパラメタは年功から成果へとシフトし、企業合併や部門売却は大企業においても普通に起こりえる、経営戦略上の選択肢の一つに過ぎなくなった。

「選択と集中」という掛け声のもと、企業は経営資源を「稼ぐ部門」に投下した。同業他社の動きを横にらみしながら打ち手を決めるというそれまでの経営手法は効力を失い、「差別化こそが競争力の源泉」であることを企業は明確に意識するようになった。

差別化を生み出す経営資源は「人材しかない」という事実もまた徐々に明らかになっていった。特に2000年代のIT革命以降、この事実のもつ重要性は増している。なぜなら、ITビジネスにおける差別化は、資本の投入量の多寡よりも、人材が生み出す知恵の質によって決まる傾向が強いからだ。稼ぐ部門に人材を集中した当然の帰結として、利益を生まない間接部門への配属は減り続けた。

そして西暦2025年、日本の人口は生産年齢人口だけではなく、総人口が減少し続ける社会になる。西暦2025年という年はまた、バブル崩壊からの35年間、間接部門の社員数が減り続ける中で、給与・福利厚生業務を支えてきたベテラン達が定年に到達し始める年でもある。後を継ぐ者がいなくなる西暦2025年に向けて時間は限られている。人事部門は準備を進めなければならない。

本稿は、人口減少社会における人事インフラのあるべき姿について、考察するものである。

2. オックスフォード大学の研究

2013年、英オックスフォード大学から『雇用の未来—コンピューター化によって仕事は失われるのか』という論文が発表された。バラエティに富んだ職業が、「消えてなくなる職業」として名指しされている。右のリストはその一部である。

スポーツの審判、カジノのディーラ、あるいはネイリストなどは、精密なセンサーと滑らかな動きをもったロボットに置き換わるだろう。レストランの予約係や映画館のチケットもぎり係は、インターネットの発展により、既に消え始めていると言って差し支えない。

銀行の融資担当者や保険・クレジットカードの審査担当者もまた消える運命にある。お客様との窓口としての役割はいまだに人間が果たしている。しかし、融資を承認するのかしないのか、するとしたら限度額はいくらになるのかといった判断は、既にコンピューターに任せられている。

このリストを上から順に見ていくと、「給与・福利厚生担当者」が8番目に記載されているのがわかる。消える職業の有力候補の一つということだろう。AI(Artificial Intelligence : 人工知能)技術の進展により、「人間にしかできない判断業務」というものはなくなっていく。最初になくなるのは定型業務かもしれない。しかしいずれは、例外についてもコンピューターが処理するようになる。

ところで、「例外処理」という単語は、「コンピューターに任せることができない」という時の言い訳としてよく使われているように思われる。例外処理までこなせることが、給与計算のベテランの証だったりもする。しかし冷静に考えてみれば、ここで言う例外処理とは、「処理の対象となる件数が少ない」ことを意味しているに過ぎない。ベテランにしか理解できない高度な計算式が使われているわけではないのである。とすれば給与計算の自動化は、既存のAI技術の応用により十分に実現可能である。

英オックスフォード大学の研究者は、「今後10〜20年程度で、米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化されるリスクが高い」と結論づけている。とすれば、西暦2025年はその始まりとなる年でもある。

主な 「消える職業」 「なくなる仕事」
銀行の融資担当者
スポーツの審判
不動産ブローカー
レストランの案内係
保険の審査担当者
動物のブリーダー
電話オペレーター
給与・福利厚生担当者
レジ係
娯楽施設の案内係、チケットもぎり係
カジノのディーラー
ネイリスト
クレジットカード申込者の承認・審査を行う作業員
集金人

3. 解決すべき課題

以上の状況を踏まえ、解決すべき課題を整理しよう。
まず、給与・福利厚生業務を支えてきたベテランは、2025年を境に定年退職の時期を迎え企業から消えていく。補充をしようにも、総人口までもが減少する環境下、企業は間接部門への配属をますます絞らざるを得ない。

一方の応募者にしてみても、消える職業と言われている給与・福利厚生業務に就くことを躊躇する可能性がある。つまり、社内の経営資源を用いて給与・福利厚生業務を継続することは、極めて困難になると予想されるのである。

間接部門業務には3つの特徴がある。第1に、「企業の競争力にはまったく関係しない」という特徴である。したがって、間接部門業務にお金をかけないという企業の判断は概して正しい。間接部門業務に求められるのは、一にも二にも「効率」である。

第2に、「止めることはできないし、間違えることもできない」という特徴である。法律は、企業は労働者に対して賃金を、毎月1回以上、一定の期日を定めて定期的に支払わなければならないと定めている。つまり企業は、給与計算業務を止めることも遅らせることもできないのである。そして給与や福利厚生業務は正しく処理されるのが当然と期待されている。間違いは極めて否定的な反応を社内に引き起こす。

第3に、「間接部門の社員を他部門に異動するのは難しい」という特徴がある。「業務を止めることなく、間違いのない処理を継続する」という間接部門の価値観は、「リスクを負ってでも競争力を作り出す」という事業部門の価値観とは相容れない。事実、多くの企業において給与・福利厚生担当者の異動例は少ないし、ベテランとなれば異動はますます困難になる。

ベテランの定年退職は企業にとって悩みであろう。しかし見方を変えれば、これまで経営者の悩みとなってきた、間接部門の非効率性や硬直性を解決する絶好の機会の到来ととらえることもできるのだ。周到な研究と準備を進めていくだけの価値は十分にある。

4. 人事インフラの2条件

ここまでの議論をもとに、人口減少社会における人事インフラが満たすべき2つの条件をまとめておこう。

第1に、人事インフラは「社内の経営資源を使わない」ものでなければならない。理由はここまで述べてきた通りである。
既存の給与計算アウトソーサの多くはこの条件を満たさない。なぜなら、給与計算を開始するのに必要なデータを余さず準備する責任は、すべて企業の側に残ってしまっているからである。計算処理だけを外注したところで、社内の経営資源の消費を止めることはできない。企業が研究すべきは、従業員からの情報の収集も含めたすべての業務プロセスを一括して引き受けるBPO (Business Process Outsourcing)サービスであろう。

第2に、そのBPOサービスは、「信頼性、安全性、効率性が保証されている」ものでなければならない。止めることも間違えることもできない給与・福利厚生業務を任せるBPOサービスは、信頼に足るだけの作業品質を保証できなければならない。預けるのが個人情報であることを考えれば、万全の安全管理措置を確保していなければならない。そしてそのBPOサービスは、圧倒的な効率性を実現していなければならない。
クラウドやAI技術を駆使し、それでいながら十分なヒューマン・インタフェースを確保した効率的なBPOサービスが、人口減少社会における人事インフラの主役になっていくだろう。

5. 人口減少社会に向けた理想の人事インフラ