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KITAHARA COLUMN キタハラコラム

第9回 本人確認(2)マイナンバーのリアル

1. 誰もが知っている身元確認書類

政府広報資料「マイナンバー 社会保障・税番号制度 民間事業者の対応 平成27年8月版」24ページを見てみましょう。ここでは身元(実在)確認書類として、運転免許証またはパスポートという誰もが知っている身元(実在)確認書類が例示されています。ここまでは他のマイナンバー解説でもおなじみですね。

しかし、これ以外にもう1つ、従業員の身元(実在)確認として極めて使いやすい書類があるのです。この書類を用いれば、免許証やパスポートも写真付きでない2種類の身元確認書類も不要です。

この書類の存在を明確に指摘した解説は、まだ見かけたことがありません。ということで、今回のテーマは「もう1つの身元(実在)確認書類」です。けっこう難しいと思いますが、得るものもまた大きいはずです。

2. もう1つの身元(実在)確認書類とは?

国税庁が発行する「国税分野における番号法に基づく本人確認方法【事業者向け】」の17ページにある表は、身元(実在)確認書類をまとめたものです。ここでは「個人番号利用事務実施者が適当と認める書類等」の1つとして、「個人番号利用事務実施者等が個人識別事項を印字した上で本人に交付又は送付した書類で、当該個人番号利用事務等実施者に対して当該書類を使用して提出する場合における当該書類」が挙げられています。

その具体例として「個人番号関係事務実施者から送付される個人識別事項(氏名及び住所又は生年月日)がプレ印字された書類」が示されています。欄外には「例えば、事業者が氏名・住所等、個人識別事項を印字した書類を顧客に交付し、顧客からその書類の返送を受けることが該当します」とも書かれています。

さらに、本人確認の方法の具体例を示している33ページを見てください。ここには例4として、「個人番号の提供を依頼する書面を活用した本人確認」が詳細に説明されています。

「個人番号の提供依頼書類に、顧客が通知カード等の写しを添付して返送することで、(中略)依頼書類に印字した住所及び氏名と添付されている通知カード等の写しの住所及び氏名が同一であることを確認することにより、身元(実在)確認を行います」と書かれています。

例として取り上げられているのが「社外の顧客」であり、個人識別事項として使われているのが「氏名と住所の組合せ」であるため、自分には関係ない具体例のように思えることでしょう(そもそも何を書いてあるのかわかりにくい)。

しかし、社外の顧客を「従業員」に置き換え、「氏名と住所の組合せ」という個人識別事項を「氏名と生年月日の組合せ」に置き換えると、これらの文章は次のように書き換えられます。

・個人番号関係事務実施者から送付される氏名及び生年月日がプレ印字された書類は、個人番号利用事務実施者が適当と認める書類等の具体例になります
・例えば、事業者が氏名・生年月日という個人識別事項を印字した書類を従業員に送付し、従業員からその書類の返送を受けることが該当します
・個人番号の提供依頼書類に、従業員が通知カード等の写しを添付して返送することで、依頼書類に印字した氏名及び生年月日と添付されている通知カード等の写しの氏名及び生年月日が同一であることを確認することにより、身元(実在)確認を行います

おわかりいただけますでしょうか。「事業者が従業員に送付した氏名と生年月日を印字した書類そのものが、身元(実在)確認書類になる」のです。免許証のコピーと同じ役割を、この書類が果たすのです。この書類以外の身元(実在)確認書類は不要になるのです。

この解釈を見つけた時、しばし私の口は開きっぱなしでした。椅子からズリ落ちていたかもしれません。すぐさまマイナンバーコールセンターへ電話し、この解釈が正しいことを確認しました。読者の皆さまも、そしてマイナンバー解説記事を書いている他の著者の皆さまも、驚いた方は多いでしょう。眉に唾をつけながらでよいですから、マイナンバーコールセンターに確認してみてください。

厚労省のガイドラインを待て

さて、この方法には1つだけ不確定要素があります。特定個人情報保護委員会による「特定個人情報の適正な取扱に関するガイドライン(事業者編)」の33ページ、「第4-3-(4)本人確認」の項を見てください。「本人確認については、番号法、番号法施行令、番号法施行規則及び個人番号利用事務者が認める方法に従うことになるため、適切に対応する必要がある」と書かれています。

今回説明した「もう1つの身元(実在)確認書類」による身元確認の方法は、一方の個人番号利用事務実施者である国税庁のガイドラインに掲載されている方法です。実は、もう一方の個人番号利用事務実施者である厚生労働省からは、本人確認に関するガイドラインがまだ示されていません。従って、今後の推移を確認する必要があります。

もしも厚生労働省が認めなかったらどうするか? そのときは、免許証等を添付するという従来のプランに戻るしかありません。さてどうなりますか。私の「読み」は言わないでおきます。

それから申し上げておきますが、このコラムは皆さまに法律面での助言を与えるものではありません。ご注意ください。

あくまでも起こり得るマイナンバーの実務を解説するものであり、ガイドライン等からの転記が多い理由は、ソースを明らかにしたいからです(ソースがない解説も、ソースを転記しているだけの解説も、価値ないものと思っています)。マイナンバーの取扱いに関する自社の方針を決定する際には、必ず法律家の助言を得るようにしてください。

Tips 3:利用目的の明示

マイナンバーのリアル 第7回で、短時間勤務の契約社員として入社した社員が、勤務時間が増えたために雇用保険にも加入することになったようなケースにおいては、利用目的を変更して本人への通知等を行うことができると解説しました。相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲内にあるのであれば、本人への通知を行えば利用目的を変更できるということです。

しかし、勤務時間が増えるたびに利用目的の追加を検討しなければならないというのも、なかなか面倒な話です。その後調べたところ、次の運用が可能であることがわかりました。

事業主が将来的に柔軟に労働時間の増減を行うことも想定してアルバイトを雇用しているのであれば、「源泉徴収票作成事務」「雇用保険の届出等に関する事務」「健康保険・年金の届出等に関する事務」は、いずれも雇用関係に基づいて発生が予想されるものといえますので、雇用時にこれらを全て利用目的として列挙した通知等を行うことができるようです。

事業主がアルバイトを雇用する際に労働時間を増やしていくことを想定していない場合は、その限りではありませんので、ご注意ください。

マイナンバーのリアル 第8回の掲載から4週間が空いてしまいました。その間、私はせっせと当社が提供する「マイナンバー管理サービス」の拡販に努めておりました。当社のサービスもまた「最も具体的で、細かな部分まで考えられている」という点におきまして、マイナンバーのリアルと同様の評価をいただいています。読者の皆さまもぜひ当社サービスをご検討くださいませ。

他にも大きな出来事がありまして、こちらもご報告させていただきます。8月12日、マイナンバーの実務に関する私の講義がDVDになって日本法令より発売されました。

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従業員向け(20分)と人事部等の事務取扱担当者向け(90分)の2枚セットです。講義資料もpdfで添付してありますので、そのまま研修に使うことができます。ぜひお買い求めください。

そして3番目の大きな出来事は、「Key Conductors アワード 2015年度上半期」におきまして、記事閲覧数部門と読者評価点部門の2部門で特別賞をダブル受賞できたことです。とてもうれしい。ありがとうございます。