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KITAHARA COLUMN キタハラコラム

Vol.006 戦略人事の目的は「知識労働の生産性向上」であるラクラスニュースレター

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1. 「戦略人事」を定義する

人事に携わる者にとって、「戦略人事」という単語ほど、魅力的に響く言葉はありません。自分のキャリアの目標を戦略人事担当に置く人事部員もいます。人材に関わる課題解決の枕詞として使うコンサルタントもいます。

しかしその意味するところは曖昧です。Webで検索してみると、次のような文章が出てきます。

● 戦略人事では、人事部も攻めの形をとる。
● 戦略人事では、経営戦略に深く関わる人事部を想定する。
● 保守的な前例主義ではなく、人と組織の側面から変革をリードしていく。

いったい何を攻めるのか、いかにして経営戦略に関わるのか、どのような手順で変革をリードするのか、どこにも答えは書いてありません。典型的なバズワード(もっともらしく聞こえるが、実際には定義や意味が曖昧な用語)であることがわかります。

本稿は前半で、戦略人事の目的を定義します。実は私にとっても、この単語は長年の悩みの種でした。例示はできるが、一言で定義できない単語でした。日本と米国での就労経験、人事と情報技術という専門分野、そして人事クラウドとBPOビジネスを日本で立ち上げて辿り着いた、現時点での結論を提示させていただきます。

後半は、戦略人事を支援する人事システムのあり方について議論します。給与計算のバッチ処理から発展した日本の人事システム、あるいはグローバルな人材管理を目的とした欧米のタレントマネジメントシステムのいずれも、私が定義する戦略人事を支援するのに十分な基本構造を持っていません。
当社の大企業向け人事クラウド「Tokiwagi(常盤木)」が、いかにして企業の戦略人事を支援するのか、そして同時に人事業務を効率化するのかを説明いたします。

2. 肉体労働の生産性向上

人類の長い歴史において、生産物を生み出すための活動はすべて肉体労働によるものでした。肉体労働の生産性は、新しい技術や道具の登場により段階的に向上してきました。しかし、肉体労働者自身がより多くの生産物を作り出そうとすれば、より長く働くか、より激しく働くかしか方法はありませんでした。

20世紀初頭、アメリカの研究者であるテイラーは、肉体労働の生産性を向上させる手法を発見しました。科学的管理法と名付けられたこの手法は、20世紀を通じて肉体労働の生産性を50倍向上させたそうです。

テイラーの手法は極めてシンプルです。まず初めに、仕事を個々の動作に分解して、そこから無駄な動作を取り除きます。不可欠なものとして残った動作をより短い時間で簡単に行えるようにします。一新された動作を組み立て直します。最後の仕上げとして、それらの動作に必要な道具を作り直します。

テイラーは、「肉体労働は単純な反復動作に過ぎない」ことを発見しました。そして知識を用いて、未熟練の肉体労働者を生産的な存在に変換する手法として、科学的管理法を確立しました。

テイラーの手法は、フォードの流れ作業やTQC等、多くの効率化手法に引き継がれました。それだけではありません。農民という未熟練労働者を生産的な存在に変換することで、日本は(そしてそれに続く途上国は)、短期間に工業化を押し進めることができたのです。

3. 知識労働の生産性向上

ドラッカーは、肉体労働(manual work)に対して、知識労働(knowledge work)という概念を提唱しました。そして、20世紀の企業における最も価値ある資産が生産設備であったのに対して、21世紀の組織における最も価値ある資産は、知識労働者であり、彼らの生産性であると主張しました。知識労働の生産性こそが唯一の意味ある競争力要因であり、企業の存続も先進国の繁栄も、すべてこれにかかっていると断言します。

日本が人口減少社会に突入したことを、私たちが最初に実感したのがエンジニア不足です。しかしそれは端緒に過ぎません。正社員の有効求人倍率が上昇しているのは、知識という生産手段を持つ知識労働者を獲得し保持することが、いかに困難かつ重要かを、経営者が気付き始めたからです。

私たちは、テイラーとその後に続く多くの研究を通じて、肉体労働の生産性を向上させる手法——単純な動作に分解し、反復する——を学びました。そしてその手法を、製造工程だけではなく、事務作業にも応用するようになりました。

しかし私たちはまだ、知識労働の生産性を向上させる手法を発見していません。私たちは、知識労働の生産性を「阻害する」いくつかの要因を発見しましたが、生産性を「向上させる」ための統一理論は未発見です。私たちはまた、肉体労働との対比から知識労働の特質を抽出し、生産性向上のための対症療法を提示できるようになりましたが、それはあらゆる組織や機会に敷衍できるものではありません。

唯一の意味ある競争力要因である知識労働の生産性を向上させる手法を、私たちはまだ、断片的にしか知らないのです。

4. 戦略人事の目的は「知識労働の生産性向上」

人事部は、この未解決の課題への解決策を見出すことで、経営に貢献することができます。知識労働の生産性向上という目標に向けて、すべての人事施策を有機的に結びつけ、これを実現することが、21世紀における戦略人事であると私は考えます。

もう四半世紀前になりますが、シリコンバレーで働いているとき、「米国における人事部のミッションは何か」と人事部の同僚に質問したことがあります。同席した人事部のディレクターから採用面接のアレンジを担当するスタッフに至るまで、全員が即座に、「Attraction and Retention」と答えてきました。有能な人材を惹きつけ(attract)、退職しないように引き止める(retain)ことこそが人事部のミッションだ、と彼らは言うのです。この言葉は、ドラッカーの著作にも繰り返し現れます。

日本においても、知識労働者を「惹きつけること」は、今や人事部の重要なミッションです。労働市場における知名度向上や新たな採用手法の確立は、間違いなく戦略目標の1つです。

もう1つ、大きな戦略目標があります。それは、知識労働者が高い動機付けをもって働き続けられる環境を作ることで、彼らを「引き止めること」です。報酬、評価、福利厚生、教育、情報共有、コミュニケーション等々、あらゆる人事上の施策は知識労働の生産性向上に貢献するものでなければなりません。

それができたとき、人事戦略は経営戦略の重要な一部として機能し始めます。

5. 知識労働の6つの特徴

知識労働の生産性向上という課題に取り組むに当たり、ドラッカーの著作から知識労働の特徴を抽出してみます。そしてこれらの特徴が、今日議論されている人事上の諸施策と、密接に結びついていることを説明します。

1:知識労働者には組織を移る力がある 知識労働者は、知識という生産手段をもって、組織を移ることができます。知識労働者の退職は、すなわち組織が生産手段を失うことを意味します。「Attraction and Retention」が人事部のミッションである理由がここにあります。

2:知識労働者の仕事は、その成果を考えるところから始まる 肉体労働において成果物は所与であり、考えるべきは仕事のやり方だけです。しかし知識労働においては、行うべき仕事は何でなければならないのか、どのような成果を期待されているのかを、知識労働者自身が考えるところから始めなければなりません。そして自律性をもって自らをマネジメントし、成果に結び付けなければなりません。

そのためには、目標設定、定期的な振り返り、達成度評価、自己申告等の人事上の施策を有効に機能させる必要があります。
働き方改革を進めるためには、労働時間管理も検討の対象に入ってきます。

3:上司との関係はパートナーシップである 上司と知識労働者は仕事上のパートナーです。上司といえども、専門分野については知識労働者に教えてもらわなければなりません。一方の知識労働者は、仕事の方向性や成果の基準について、上司の判断を待たなければなりません。パートナーシップの本質は、命令と服従ではなく、対等性にあります。

上司の役割は、一方的な評価ではなく、知識労働者が高い成果を生み出せるように支援することに変わります。カウンセリング、コーチング、1 on 1等の施策が求められます。

4:アウトプットを組み合わせることで成果物となる専門分野が分かれていますから、知識労働者のアウトプットは、他の知識労働者のアウトプットと組み合わされてはじめて、組織としての成果になります。あるいは、知識労働者のアウトプットは、他の知識労働者のインプットになります。

スキルチェック、コンピテンシー評価、多面評価等のデータに基づく、適材適所、コミュニケーション、チームビルディング、ダイバーシティ等の施策が関係します。

5:知識労働者は自ら学習しなければならない 専門分野については、組織の中の誰よりも詳しいことが、知識労働者の知識労働者たる所以です。知識労働者は、自ら継続して学習しなければなりません。 組織は、知識労働者を費用としてではなく、資産として扱い、その価値を高める施策を講じる必要があります。十分な情報や教育を受ける機会を与えるのはもちろん、学会への参加や論文の発表等の社外活動を支援する施策も求められます。

6:無報酬のボランティアの動機付けとの類似 ボランティアは、無報酬であるが故に、仕事そのものから満足を得ることが動機付けになります。 知識労働者も同じです。知識労働者の動機付けに必要なのは、「組織のミッションが自分にとって意味があるとの確信」であることをドラッカーは指摘します。知識労働者の動機付けが何であるのかを積極的に聞き取るモチベーションサーベイ等も必要になるでしょう。このプロセスは、採用面接の段階から始まり、入社後は上司の仕事として継続されます。 人事部は、一人ひとりの知識労働者の動機付けを把握し、その情報を集約し、適材適所を実現する役割を引き受けなければなりません。

報酬は知識労働者の動機付けにおいては副次的な効果しか持たない、といった意見もあります。しかし私は、成果に対する適切な報酬を支払うことは、知識労働者の動機付けに重要な意味をもつと考えています。成果に対応した報酬は、「自分が成し遂げた成果には意味があった」との確信を、知識労働者の中に生み出す役割を果たします。

人材という経営資源のパフォーマンスは、動機付け次第で変動します。人事部は、知識労働者を動機付けるための施策を有機的に結びつけ、実行することで、その生産性の向上を支援することができます。それらの施策が、知識労働者を組織に引き止める役割を果たすことは、言うまでもありません。

6. 第1の条件:「統合人事データベース」

ここまでの前半で私は、幅広い人事上の諸施策——目標設定、達成度評価、多面評価、自己申告、定期的な振り返り、カウンセリング、コーチング、モチベーションサーベイ、1 on 1、コミュニケーション、チームビルディング、ダイバーシティ、スキルチェック、コンピテンシー評価、教育、トレーニング、社外活動、報酬、適材適所の配置、労働時間管理など——は知識労働者を動機付け、ひいては生産性を向上するという視点から、同一線上に整理できることを説明しました。

ここからの後半では、これらの施策を支援する人事システムが備えるべき2つの条件——「統合人事データベース」と「統合ワークフロー」——、およびこの2条件を満たしたときに実現される2つの成果物——「データの情報化」と「自動処理による生産性向上」——について説明します。

人事システムが備えるべき第1の条件は、人材データのすべてを一元的に記憶し、自在に検索・出力する「統合人事データベース」です。

前述した諸施策に必要なデータは、タレントマネジメントから労働時間管理まで幅広い領域にまたがっています。しかし、給与計算のバッチ処理から出発した日本の人事システムも、グローバルな人材管理を目的とした欧米のタレントマネジメントシステムも、すべての人材データを一元的に管理することができません。

日本の人事システムは、時代の要請に応じて、給与計算、人事データ管理、就業管理、ワークフロー、マイナンバー、タレントマネジメント等の機能を順次追加してきました。そして新しい機能を追加するたびに、個別の独立したデータベース——給与データベース、人事データベース、就業データベース等々——を追加してきました。毎月の給与計算の最初の工程が「人事システムからの基本情報と、就業システムからの就業情報を、給与システムに取り込むこと」である理由は、データベースが分割されているからです。

データを検索・出力するときにも、データベースが分割されているが故の不便さが露呈します。例えば、給与データベースには、毎月の給与計算結果が月ごとの個別ファイルとして保管されています。12ヶ月分のファイルをすべて開かなければ、過去1年間に支払われた給与の推移を見ることはできません。

別のデータベースの参照が必要になる場合もあります。ある月の給与ファイルには、通常勤務時間や時間外勤務時間の合計値が記録されています。しかし、社会保険手続きのために毎日の出退勤状況を調べたいと思ったら、就業データベースを見にいくしかありません。合計値は給与データベースにありますが、毎日の打刻データは就業データベースにしかないのです。

基本人事データはオンプレミスの人事データベースに格納されているが、人事評価データは外部のクラウドにしかないといったケースもあります。最終の評点データだけをエクセルで管理している、といったケースも少なくありません。評価や自己申告のテキストデータには、知識労働者の動機付けを把握するための貴重な情報が含まれているのに、もったいないことです。

一方、欧米のタレントマネジメントシステムは、就業、給与、福利厚生といった日本ローカルなデータをそもそも管理しようとしていません。また昨今登場してきた、タイムカード、評価、社会保険手続といったクラウドサービスは、その領域に特化した機能とデータベースしか持っていません。日本の人事システムも欧米のタレントマネジメントシステムも、知識労働者の生産性向上という戦略目標を実現するのに十分ではないのです。

Tokiwagiは、従業員に関するすべてのデータを一元的に記憶し、自在に検索・出力できる統合人事データベースを実現しています。図1は、データのつながりを示す設計書の一部です。すべての管理項目は有機的に結合されています。管理できる項目数やテーブル数に制限はありません。

Tokiwagiはまた、すべての管理項目を履歴データとして取り扱います。その結果、図2に示すように、項目ごとに異なる基準日による検索・出力を行うことができます。

図1.統合人事データベース

図2.複数領域・複数基準日検索

7. 第2の条件:「統合ワークフロー」

戦略人事を支援する人事システムの第2の条件は、統合人事データベースを「リアルタイムに更新する統合ワークフロー」です。

統合人事データベースが「脳」であるとすれば、統合ワークフローは従業員と脳とを結びつける「神経網」です。従業員は、クラウドで提供される統合ワークフローにログインして、例えば身上情報の変更を申請します。デジタル化された申請データは、しかるべき承認経路を経て、統合人事データベースを更新します。

逆の流れとして、人事部から従業員にデータを配布し、これを回収することもできます。例えば、人事部が人事評価票を配布し、従業員が自己評価を記入し、そこに上司が上司評価を書き加えることができます。そこまでの内容を紙に印刷した上でレビューミーティングを行い、最終的に両者が合意した内容を、再度統合ワークフローに入力して人事部に提出することもできます。

上司は統合ワークフローを用いて、統合人事データベースに記録された部下のプロファイルや勤務状況を参照することもできます。参照できるのは、上司として参照することが許される範囲に限られます。

Tokiwagiによる統合人事データベースが人材データをすべて一元的に記憶するのと同様に、統合ワークフローは企業と従業員間のデータの流れをすべて一元的に管理します。その対象は人材データに限りません。

図3に示す通り、統合ワークフローのインタフェースはレスポンシブルで、マルチデバイス、マルチブラウザ対応です。そしてマルチリンガル対応ですから、グローバルなタレントマネジメントにもご利用いただけます。

マニュアルを読まなくても、従業員が必要な情報をストレスなく入力できるナビゲーション機能は当社特許です。

図3.マルチデバイス・ブラウザ対応

8. 第1の成果物:「データの情報化」

次に、常に最新にアップデートされた統合人事データベースによって実現される成果物を説明します。まず、「データの情報化」です。

統合人事データベースに格納されているのはデータです。「データ」は、事実の蓄積に過ぎません。目的をもってデータを加工し、その中から意味を見出すことではじめて、データは価値ある「情報」へと変換されます。これをデータの情報化と呼びます。

申し上げるまでもなく、母集団となるデータが多い方が情報の信頼性は高くなります。しかし、データが膨大になると、意味を取り出すための作業に時間がかかるようになります。

Tokiwagiは、このジレンマを解決するためにBI(Business Intelligence)機能を搭載しています。BI機能により人事部は、膨大なデータを高速に可視化できるようになります。統合人事データベースに格納されている、組織、資格、年齢、性別、評価、自己申告、労働時間、支払給与等の履歴データを自在に組み合わせて可視化することで、全体の傾向を俯瞰したり、特異値を見つけ出したりする作業が容易になります。あるいは、仮説を立て、その検証に必要なデータを取り出すことができるようになります。

図4は、BIで可視化したグラフのサンプルです。BIのエンジンは、ウイングアーク1st株式会社のMotionBoardを組み込んでいます。当社は今後、AI(Artificial Intelligence)の活用により、蓄積されたデータから規則性を見つけ出す研究を進めていきます。AIは、人間が仮説を提示しなくても、異なる集合間に存在する隠れた規則性を探し出してくれます。仮説を必要とするBIとは、その点が大きく異なります。

BIやAIを用いて統合人事データベースを分析することで、人事部は、自社の知識労働者の生産性向上に資する規則性を発見できる可能性があります。それは企業の経営戦略の推進に大きく貢献するでしょう。

図4.BIによる可視化例

9. manual workを再定義する

常に最新にアップデートされた統合人事データベースが実現するもう1つの成果物は、「自動処理による生産性向上」です。この説明に入る前に、ドラッカーのいうmanual workを再定義する必要があります。私は、manual workを肉体労働と訳したことが、今日ある種の問題を引き起こしていると考えています。

20世紀においてmanual workを「肉体労働」と翻訳したことは、大きな間違いではありませんでした。生産物を生み出すための活動が、かつてはすべてが肉体労働であったことを考えれば、順当な訳といえるかもしれません。しかし21世紀においては、manual workを肉体労働と訳すことの弊害が、顕著になっています。なぜなら、机に座ってPCを操作していればそれは知識労働である、と誤解されている節があるからです。

実はドラッカーも、「コンピュータのオペレータの仕事は、肉体労働が中心であって、知識の部分は小さい。しかしたとえ小さくてもそれらの知識は不可欠であるが故に、彼らは知識労働者であるところのテクノロジスト(高度技能者)である」と述べているため、誤解が生まれても仕方ない部分はあります。しかし、ドラッカーのこの発言は、1人1台のPCもなければスマホもない、20世紀のものであることを思い起こしましょう。

私は、manual workの本質は、テイラーの発見であるところの「その作業を単純な動作に分解し反復できること」であると考えます。従って肉体労働ではなく「反復労働」と訳す方が、より本質に近いと考えます。先ほどのドラッカーの文章も、「コンピュータのオペレータの仕事は、反復労働が中心であって、知識の部分は小さい」と読んだ方がすっきりします。

反復労働と知識労働を区切る境界線は一定ではありません。薄い灰色から濃い灰色へのグラデーションが続いています。1人の労働者の作業の中に両方の要素が混じっていますし、時代につれて変化もします。疑問に感じたら、次の質問を発してみることが有効でしょう。

● その作業を単純な動作に分解できるか?
● その労働者を失うことは、組織にとって生産手段を失うことにつながるか?
● 成果は所与か?それとも成果の定義から仕事が始まるのか?
● 上司との関係は命令と服従か?それとも対等性か?
● その労働者は、学習による知識の拡充を継続しているか?
● その労働者にとっての動機付けは何か?

これらの質問への答えを考えてみると、PCを使う仕事のすべてが必ずしも知識労働ではないことがわかるでしょう。

10. 第2の成果物:「自動処理による生産性向上」

私は、日本のホワイトカラーの生産性の低さは、「知識労働者たるべき人材に反復労働を与えている組織」に一因があると考えています。一方で、その環境に甘んじて「反復労働で満足する知識労働者」や「反復労働を知識労働と思い込んでいる労働者」が多いというのも事実だと思います。

例えば給与計算や社会保険業務は、法律知識が必要な義務です。効率的に処理するためにはPCの操作も知らなくてはなりません。一見すれば知識労働に思えます。しかし内訳を精査すれば、成果は所与であり、単純な動作に分解できることがわかります。「給与計算には専門知識が必要」と信じている方には申し訳ないのですが、給与計算は、今後、反復労働へと置き換えられていきます。

2013年に英オックスフォード大学が発表した「雇用の未来—— コンピュータ化によって仕事は失われるのか」という論文は、給与計算を含む多くの職業がコンピュータに取って代わられると予測しています。ここまで議論してきた通り、コンピュータが人間に取って代わるのは、反復労働です。そして私は、当社こそが反復労働をコンピュータに代替させる最先鋒でありたいと考えています。なぜなら反復労働から知識労働者を解放することこそが、知識労働の生産性を向上するための第一歩であるからです。

Tokiwagiは、1ヵ月にわたる給与計算の作業動線をすべて記憶して自動処理します。自動処理を可能にする鍵は、常に最新にアップデートされた統合人事データベースです。給与計算や社会保険手続きを行うのに必要なデータが、1つのデータベースに統合されているからこそ、Tokiwagiによる給与計算ソフトは、すべてのデータを自在に検索して対象者を抽出し、法律や規程に基づく入力値を設定できるのです。

Tokiwagiは、給与計算業務を知識労働から反復労働へと置き換えることで、知識労働者を反復労働から解放します。
Tokiwagiの機能を図5に示します。

図5.知識労働の生産性向上を支援するTokiwagi

11. 最後に:21世紀の知識労働者

私たちは、テイラーの科学的管理法 — 分割して反復する — を事務処理に応用することで、知識労働と考えられていた作業を反復労働へと置き換える努力を続けてきました。コンピュータは、事務処理という反復労働を効率的に行うための最強の道具でした。

振り返ってみれば、メインフレームによるバッチ処理は、同一フォーマットかつ同一タイミングでの入力値に対する大量一括処理を効率化しました。PCはワープロ、スプレッドシート、メールという3種の神器で事務作業を一変させました。インターネットは、神経網として広がり、一件一件のタイミングが異なるトランザクション処理を可能にしました。RPAは、ターゲットとなるアプリケーションソフト(例えば給与計算ソフト)の画面操作の反復作業を自動化しました。現在当社では、画像認識AIが年末調整の添付書類を自動的に識別し、チャットボットが扶養控除についての質問に答えています。

技術は進歩し、応用範囲は広がりましたが、コンピュータはいまだに、人間が定義した以上のことは実行できません。コンピュータに反復労働をさせるためには、厳密な要件定義と、コンピュータが理解できる言語への翻訳が不可欠です。

ここでちょっと話が逸れます。申し上げるまでもなく、Tokiwagiを稼働させるのにも、要件定義は不可欠です。厳密な定義がなければいかなる情報システムも正しく動きません。しかし、Tokiwagiがこれまでのソフトウェアと大きく異なるのは、厳密な要件定義さえ記述すれば、それをコンピュータが理解できる言葉に翻訳する作業—つまりプログラミング—は不要だということです。ラクラスは、世界でも類を見ないNo Code技術を開発し、プログラマという通訳を不要にしました。詳細は本稿では省きます。

私は、「漠然とした要求から厳密な要件を定義する」という仕事は、21世紀の知識労働者の仕事としてますます重要になると考えています。法律が改正され、人事規程が改訂され、それに従ってコンピュータがどのように給与計算を行うのか、労働時間を計測するのか、あるいは人事評価を有効なものにするのかを定義するのは、これからも知識労働者の仕事です。しかし定義されたものを正確に反復する作業は、間違いなくコンピュータに取って代わられます。シンギュラリティがいつ到来するのかはわかりません。しかしそれまでの間、「知識労働者が定義し、コンピュータが反復する」という作業分担は、さらに進展するはずです。当社は人事情報処理の分野で知識労働の生産性向上に貢献してまいります。

2019年5月
ラクラス株式会社
代表取締役社長 北原佳郎

本稿の執筆においては、P.F.ドラッカーの多くの著書を参照いたしました。