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健康診断は企業の義務! 対象者や検査項目について徹底解説

2025.11.07
健康診断表を抱える男女

本記事では、企業が実施すべき健康診断について、各種類の概要や対象者、実施時期などを詳しく解説します。また、健康診断にかかる費用の相場や取り扱い、受診中における賃金や労働時間の考え方も紹介していきます。人事労務の仕事に携わるにあたって健康診断の基礎知識を押さえておきたい方は、ぜひ本記事を参考にしてください。

 

健康診断は、企業が従業員を雇用する際に必ず行わなければならない取り組みです。

 

法律で義務付けられた健康診断にはさまざまな種類があり、人事労務の担当者は各対象者や実施時期を把握したうえで、適切な対応をしなければなりません。また、健康診断の実施後は、診断結果の保存や労働基準監督署への報告といった事務手続きも必要です。

 

そこで本記事では、企業が実施すべき健康診断について、各種類の概要や対象者、実施時期などを詳しく解説します。記事の後半では、健康診断にかかる費用の相場や取り扱い、受診中における賃金や労働時間の考え方も紹介していきます。

 

これから人事労務の仕事に携わるにあたって健康診断の基礎知識を押さえておきたい方は、ぜひ本記事を参考にしてください。

 

健康診断の概要と2つの種類

 

健康診断とは、体の健康状態をある尺度で総合的に確認するプログラムの総称であり、一般には「健診」と呼ばれます。健康診断には、下記のとおり法定と任意の2種類があります。

 

 

【法定健診(定期検診)】
健康増進法や労働安全衛生法などの法律で実施が義務付けられたもの

 

【任意健診】個人が任意の判断で受けるもの

 

 

<参考>:日本の健診(検診)制度の概要<PDF>(厚生労働省)

 

法定健診には、乳児・妊婦・市民・従業員といった対象者ごとの種類があり、内容はそれぞれ異なります。これに対して任意健診の代表的なものとしては、個人が自分で病院に予約をして行う人間ドックなどが該当するでしょう。

 

任意健診には、本人がそれを希望すれば法定健診よりも多くの項目を検査できる利点があります。しかしその際の費用は自己負担となるため、とても高額です。費用を抑えるためには、法定健診と任意健診(検診)をうまく組み合わせて受診する方法もあります。

 

ここからは、企業における法定健診(法律にもとづく企業の健康診断)について、詳しく解説していきましょう。

 

法定健診(法律にもとづく健康診断)は
企業の義務

 

労働安全衛生法第66条では、事業主に対して、医師による労働者の健康診断を実施することを義務付けています。企業が法律で定められた健康診断を実施しない場合、労働安全衛生法第120条に基づき50万円以下の罰金が科せられます。

 

<参考>:e-GOV法令検索(労働安全衛生法)

 

また、労働者は、事業主が実施する健康診断を受けなければなりません。もし労働者が健康診断の受診を理由なく受診を拒否し続けた場合、会社に義務付けられた従業員の健康管理の遂行を妨げたということで、懲戒処分の対象になる可能性があります。(※就業規則にその規定がある場合)

 

さらに、労働基準監督署が「会社側が労働者に健康診断を適切に受けさせていない」と判断した場合、指導対象になるかもしれません。そこで悪質性が認められた場合、刑事罰が科せられる可能性もあります。

 

こうした数々の理由から、企業は必ず医師による健康診断を実施し、労働者に受診してもらう為の仕組みづくりやサポートなどを行う必要があります。

 

<参考>:労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~(厚生労働省)

 

健康診断の実施で防げるリスクとメリット

 

健康診断が「法律で義務付けられたもの」というと、企業担当者の中にはさまざまなペナルティやリスクを防ぐために行う「絶対にやらなければならないこと」というネガティブなイメージが生まれやすくなるかもしれません。

 

しかし、法律で定められた健康診断には、従業員の不調や病気によるリスクを防ぐ効果はもちろんのこと、組織の持続的な発展につながるさまざまなメリットがあります。3つの代表的なメリットを見ていきましょう。

 

メリット(1)
健康状態の把握と健康リスクの早期発見

 

健康診断を定期的に実施する最大のメリットは、会社側が従業員の健康状態を把握できる点です。

 

普段元気に働いている人でも、実際に健康診断を受けてみると、肝機能や脂質代謝、糖代謝などに異常が見受けられるケースもあります。脂質代謝や糖代謝は、心筋梗塞や脳卒中などとも関連性が高い項目です。心筋梗塞や脳卒中がいきなり起これば、仕事中に従業員が倒れてしまうかもしれません。

 

これらの項目をチェックすることで従業員の体内で起きている異常を早期に把握し、本人への配慮や助言、適切なサポートなどを行いやすくなります。

 

メリット(2)生産性の維持・向上

 

個人および組織の生産性を維持・向上するためには、健康な従業員が中長期的に働き続けられることが大切です。

 

健康診断を通して会社が従業員の健康状態を把握すると、業務に起因する健康障害を未然に防止できます。また、何らかの持病を抱えた従業員については、健康診断の結果を見ながら負担の少ない働き方を模索することで、健康問題を理由にする優秀な人材の休職や離職も防ぎやすくなるでしょう。

 

メリット(3)健康経営の推進

 

健康経営とは、従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、戦略的に実践していくことです。

 

先述のとおり、健康診断を「法律で義務付けられたもの」ととらえると、いわゆる“やらされ感”が生じやすくなるはずです。しかしそこで「人的資本投資の一環」へと認識を変えると、現場の活力や生産性向上につながる施策としてポジティブに取り組みやすくなるでしょう。

 

「元気な従業員に長く働いてもらう取り組み」として健康診断を位置づけると、診断結果を離職率や人手不足、生産性および品質低下といったさまざまな問題の解決に役立てられるはずです。

 

【関連記事】健康経営の取り組み事例15選|健康経営優良法人の認定要件や成功ポイントも解説

<参考>:健康経営(経済産業省)

<参考>:人的資本経営~人材の価値を最大限に引き出す~(経済産業省)

 

企業の健康診断における2つの種類

 

企業に義務付けられている健康診断には、大きく分けて以下の2種類があります。

 

 

【一般健康診断】
事業者に実施が義務付けられているもの

 

【特殊健康診断】
有害な業務に常時従事する労働者を使用する際に、
実施が義務付けられているもの

 

 

上記のなかには、さらに細かな種類があります。企業が従業員を雇用する場合は、対象者への健康診断を適切なタイミングで行わなければなりません。ここからは「一般健康診断」と「特別な健康診断(特殊健康診断)」について、詳しく解説していきましょう。

 

一般健康診断の種類や概要、対象者や実施時期について

 

一般健康診断とは、事業者に実施が義務付けられているものです。具体的には5つの種類があります。各種類の概要や対象者、実施タイミングなどを詳しく見ていきましょう。

 

 

<引用>:労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~(厚生労働省)

 

(1)雇入れ時の健康診断

 

労働安全衛生規則 第43条では、「常時使用する労働者」を「雇い入れたとき」に健康診断を行うことを義務付けています。雇入れ時の健康診断における診断項目は、以下の11種類です。雇入れ時の場合、医師の判断に基づき省略できる項目はありません。

 

 

  1. 既往歴及び業務歴の調査
  2. 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
  3. 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
  4. 胸部エックス線検査
  5. 血圧の測定
  6. 貧血検査 (赤血球数、血色素量)
  7. 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
  8. 血中脂質検査(LDL コレステロール、HDL コレステロール、血清トリグリセライド)
  9. 血糖検査
  10. 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
  11. 心電図検査(安静時心電図検査)

引用:定期健康診断等について(厚生労働省 栃木労働局)

 

 

(2)定期健康診断

 

労働安全衛生規則 第44条では、「常時使用する労働者」に対して、「1年以内ごとに1回」の定期健康診断を行うことを義務付けています。なお、次に紹介する特定業務従事者は、定期健康診断の対象になりません。定期健康診断の検査項目は、雇入れ時と同じ11種類です。

 

 

  1. 既往歴及び業務歴の調査
  2. 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
  3. 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
  4. 胸部エックス線検査
  5. 血圧の測定
  6. 貧血検査 (赤血球数、血色素量)
  7. 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
  8. 血中脂質検査(LDL コレステロール、HDL コレステロール、血清トリグリセライド)
  9. 血糖検査
  10. 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
  11. 心電図検査(安静時心電図検査)

 

<引用>:定期健康診断等について(厚生労働省 栃木労働局)

 

 

また、定期健康診断の場合は、以下の項目は医師の判断により省略が可能となります。

 

  省略可能な項目 省略基準(医師の判断による)
身長、体重、腹囲、
視力及び聴力の検査

【身長】20歳以上

【聴力】45歳未満(35歳、40歳を除く)は、医師が適当と認める聴力(1,000ヘルツまたは4,000ヘルツの音にかかる聴力を除く)検査方法によることが可能
【腹囲】40歳未満の者(35歳を除く)、妊娠中の女性、BMI20未満である者の場合、自ら腹囲を測定し申告すれば省略可
胸部エックス線検査
および喀痰検査

【胸部エックス線検査】

40歳未満の者(20歳、25歳、30歳および35歳の者を除く)で、次のいずれにも該当しないもの
①病院等一定の施設で業務に従事する者
②常時粉じん作業に従事する労働者で管理区分1のものまたは従事させたことのある労働者で現に粉じん作業以外の常時従事している管理区分2の労働者

【喀痰検査】

①胸部エックス線検査によって病変の発見されない者
②胸部エックス線検査によって結核発病のおそれがないと診断された者
③胸部エックス線検査の項に掲げる者

貧血検査(血色素量及び赤血球数)
肝機能検査(GOT、GPT、γ―GTP)
血中脂質検査( LDLコレステロール、 HDLコレステロール、血清トリグリセライド)
血糖検査
40歳未満(35歳を除く)
心電図検査 40歳未満(35歳を除く)

 

<出典>:健康診断を実施しましょう ~労働者の健康確保のために~(厚生労働省)

 

(3)特定業務従事者の健康診断
  (労働安全衛生規則 第45条)

 

特定業務従事者とは、労働安全衛生規則の第13条第1項第2号に掲げる以下の業務に常時従事する人のことです。

 

特定業務従事者の場合、「当該業務の配置替え」および「6ヵ月以内ごとに1回」のタイミングで定期健康診断と同じ項目の健康診断を定期的に実施する必要があります。ただし、胸部エックス線検査と痰検査については、「1年以内に1回、定期」の実施で構いません。

 

 

イ. 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務

ロ. 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務

ハ. ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務

ニ. 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する
    場所における業務

ホ. 異常気圧下における業務

ヘ. さく岩機、鋲(びよう)打機等の使用によつて、
   身体に著しい振動を与える業務

ト. 重量物の取扱い等重激な業務

チ. ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務

リ. 坑内における業務

ヌ. 深夜業を含む業務

ル. 水銀、砒(ひ)素、黄りん、弗(ふつ)化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、
   青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる
   有害物を取り扱う業務

ヲ. 鉛、水銀、クロム、砒(ひ)素、黄りん、弗(ふつ)化水素、塩素、
  塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、
   ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、
   蒸気又は粉じんを発散する場所における業務

ワ. 病原体によつて汚染のおそれが著しい業務

カ. その他厚生労働大臣が定める業務

 

<引用>:健康診断を実施しましょう ~労働者の健康確保のために~(厚生労働省)

 

 

(4)海外派遣労働者の健康診断

 

従業員を海外派遣させる場合、労働安全衛生規則 第45条の2に基づき、以下のタイミングでの健康診断が必要となります。

 

 

  • 労働者を6ヵ月以上海外に派遣させる際
  • 海外に6ヵ月以上派遣した労働者を帰国させ、国内業務に従事させる際

 

 

海外派遣労働者への診断項目は、定期健康診断と同じです。ただし、医師が必要と認めた場合は、以下の項目が追加されます。

 

 

  • 腹部画像検査(胃部エックス線検査、腹部超音波検査)
  • 血液中の尿酸の量の検査
  • B型肝炎ウイルス抗体検査
  • ABO式及びRH式の血液型検査(派遣前に限る)
  • 糞便塗抹検査(帰国後に限る)

 

<引用>:健康診断を実施しましょう ~労働者の健康確保のために~(厚生労働省)

 

 

なお、海外派遣労働者に対する健康診断の場合、定期健康診断等で40歳未満(35歳を除く)に対して認められている血液検査および心電図検査は省略できません。

 

(5)給食従業員の検便

 

労働安全衛生規則 第47条の2では、給食業務に従事する労働者に対して、「雇入れの際」または「配置替えの際」の検便実施が必要としています。

 

<参考>:健康診断を実施しましょう ~労働者の健康確保のために~(厚生労働省)

 

特殊健康診断の種類や概要、
対象者や実施時期について

 

特殊健康診断とは、労働安全衛生上「特に有害である」といわれる業務に従事する労働者を対象にしたものです。労働安全衛生法第66条の第2・3項、じん肺法第3条に定められている健康診断になります。

 

特殊健康診断の目的

 

厚生労働省では特殊健康診断の目的として、以下の3項目を掲げています。

 

 

 

(1)職業性疾患を早期発見して早期治療に結びつけること

(2)有害要因のばく露程度を評価し、健康障害リスクを低減させるため
   に作業環境や作業方法の改善に生かすこと

(3)個別の労働者について、就業場所の変更、作業の転換、
    労働時間等の短縮を講ずること

 

<引用>: 健康診断を実施しましょう ~労働者の健康確保のために~(厚生労働省)

 

 

法令にもとづく特殊健康診断の種類や対象者、
実施タイミング

 

法令にもとづく特殊健康診断には、10の種類があります。各種類の関連法律・対象労働者・実施時期は、以下のとおりです。

特殊健康診断
の種類
関連法律 対象労働者 実施時期
じん肺
健康診断
じん肺法第3条、
第7~10条
常時粉じん作業に従事する労働者及び従事したことのある管理2又は管理3の労働者
(じん肺の所見があると診断された場合には、労働局に健診結果とエックス線写真を提出する必要があります。)
【常時粉じん作業に従事している管理区分1の者】3年に1回定期

【常時粉じん作業に従事している管理区分2・3の者】1年に1回定期

【常時粉じん作業に従事したことがあり現に非粉じん作業に従事している管理区分2の者】3年に1回定期

【常時粉じん作業に従事したことがあり現に非粉じん作業に従事している管理区分3の者】1年に1回定期
有機溶剤
健康診断
有機溶剤中毒
予防規則 第29条
屋内作業場等における
有機溶剤業務に
常時従事する労働者
雇入れ時・
配置替え時・
6ヵ月1回定期
鉛健康診断 鉛中毒予防規則
第53条
鉛業務に常時従事する
労働者
雇入れ時・
配置替え時・
6ヵ月1回定期
四アルキル鉛
健康診断
四アルキル鉛中毒
予防規則 第22条
四アルキル鉛等業務に
常時従事する労働者
雇入れ時・
配置替え時・
3ヵ月1回定期
特定化学物質
健康診断
特化化学物質障害
予防規則 第39条
特定化学物質を製造し、
又は取り扱う業務に
常時従事する労働者
及び過去に従事した
在籍労働者(一部の物質に係る業務に限る)
雇入れ時・
配置替え時・
6ヵ月1回定期
高気圧業務
健康診断
高気圧作業
安全衛生規則
第38条
高圧室内業務又は
潜水業務に常時
従事する労働者
雇入れ時・
配置替え時・
6ヵ月1回定期
電離放射線
健康診断
電離則第56条 放射線業務に常時従事する労働者で管理区域に立ち入る者 雇入れ時・
配置替え時・
6ヵ月1回定期
除染等電離放射線
健康診断
除染電離則
第20条
除染等業務に常時従事する除染等業務従事者 雇入れ時・
配置替え時・
6ヵ月1回定期
雇入れ時・
配置替え時・
6ヵ月1回定期
石綿障害予防規則
第40条
石綿等の取扱い等に伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務に常時従事する労働者及び過去に従事したことのある在籍労働者 雇入れ時・
配置替え時・
6ヵ月1回定期
歯科医師による
健康診断
労働安全衛生規則
第48条
塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、弗化水素、黄りんその他歯又はその支持組織に有害な物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務に常時従事する労働者 雇入れ時・
配置替え時・
6ヵ月1回定期

 

<出典>:健康診断を実施しましょう ~労働者の健康確保のために~(厚生労働省)

 

行政指針・指導・勧奨による特殊健康診断

 

特殊健康診断には、上記の「法令にもとづくもの」のほかに、いわゆる行政指導(通達)で実施を勧奨しているものがあります。たとえば、「紫外線、赤外線にさらされる業務」に従事する労働者に対しては、視診による目の障害の検査を勧奨しています。

 

こちらの特殊健康診断には、全部で29の項目があります。具体的な対象業務は、以下の情報を参照してください。

 

<参考>:健康診断を実施しましょう ~労働者の健康確保のために~(厚生労働省)

<参考>:労働衛生コラムNo.4『指導勧奨による特殊健康診断』(岡山産業保健総合支援センター)

 

看護師

一般健康診断の対象者における注意点

 

一般健康診断を法律に則って適切に実施するためには、対象判断の基準を知ることが大切です。また、厚生労働省が示す「常時使用する労働者」の定義や範囲も、人事担当者が理解しておくべき基準になります。詳しく見ていきましょう。

 

常時使用する労働者とは

 

一般健康診断における「常時使用する労働者」とは、以下の(1)(2)を両方満たす人のことです。

 

 

(1) 1年以上の長さで雇用契約をしているか、または、雇用期間を全く
    定めていないか、あるいは既に1年以上引き続いて雇用した実績が
    あること。

(2) 一週間あたりの労働時間数が通常の労働者の
  4分の3以上であること。

 

<引用>:各種健康診断について(厚生労働省 愛知労働局)

 

 

上記に該当すれば、正社員以外の契約社員・パートタイマー・アルバイトといった非正規労働者でも定期健康診断の対象になります。

 

また、厚生労働省では、上記の②「一週間あたりの労働時間数が通常の労働者の4分の3以上」にあたらない場合でも、①に該当していて、なおかつ同種の業務に従事する労働者の一週間の所定労働時間の概ね2分の1以上の労働時間数を有する人に対しても、定期健康診断を実施することが望ましいとしています。

 

一般健康診断の対象判断で注意すべき人

 

派遣労働者と役員は、一般健康診断の対象判断で注意すべき存在です。

 

まず派遣労働者が雇用契約を締結しているのは、派遣元企業です。したがって、派遣労働者の健康診断は、雇用をしている派遣元の会社で行うべきものとなります。

 

これに対して役員は、その人に「労働者性があるかどうか?」で判断が異なります。たとえば、取締役や監査役は労働性がない「使用者」にあたります。使用者は労働者ではありませんから、健康診断の実施対象外です。

 

しかし、その取締役・監査役がたとえば、支店長や部長を兼務している場合、「労働者性がある」とみなされることで、健康診断の実施対象になる可能性が高いでしょう。

 

健康診断における情報管理と結果報告

 

法律で義務付けられた健康診断は、「実施さえすれば良い」というものではありません。健康診断の実施後は、書類の作成・保存・労働基準監督署への報告といった手続きが求められます。ここからは、健康診断の実施後に生じる事務手続きのポイントを解説しましょう。

 

健康診断個人票の作成と保存義務

 

健康診断個人票とは、会社が実施した健康診断の結果を個人ごとに記録した書類です。

 

健康診断個人票は、健康診断の種類ごとに必須項目が決められています。書類の作成時は、厚生労働省のホームページからダウンロードしたものを使用するか、同じ項目の専用フォーマットを自社で用意して記入することになります。

 

<参考>:健康診断個人票(厚生労働省 長崎労働局)

 

作成した健康診断個人票は、法律で定められた年数での保存が必要です。保存年数は、対象となる健康診断ごとに異なりますので注意が必要です。

 

健康診断の分類 健康診断の種類 健康診断個人票の保存期間
一般健康診断 雇れ入時の健康診断 5年保存
定期健康診断
特定業務従事者の健康診断
歯科医師による健康診断
海外派遣労働者の健康診断
特殊健康診断 じん肺健康診断 X線フィルムとともに7年保存
有機溶剤健康診断 5年保存
鉛健康診断 5年保存
特定化学物質健康診断 5年(一定の物質については30年)
電離放射線健康診断 30年保存
高気圧作業健康診断 5年保存
石綿健康診断 40年保存

 

<出典>:健康診断の種類及び報告義務(厚生労働省 岡山労働局)

 

健康診断結果の提出

 

健康診断のなかには、所轄の労働基準監督署への報告が義務付けられている種類があります。以下の報告基準に該当した場合、実施から1ヵ月以内を目安とした報告が必要です。

 

健康診断の分類 健康診断の種類 所轄労働基準監督署への
報告基準
一般健康診断 雇れ入時の健康診断 報告の必要なし
定期健康診断 常時50人以上の労働者を使用する場合
特定業務従事者の健康診断 常時50人以上の労働者を使用する場合
歯科医師による健康診断 常時使用する労働者の数に
かかわらず報告
海外派遣労働者の健康診断 報告の必要なし
特殊健康診断 じん肺健康診断 毎年、12月末現在のじん肺健康管理実施状況を、健康診断実施の有無に
かかわらず翌年2月末までに報告
有機溶剤健康診断 有機溶剤等健康診断結果報告書
(様式第三号)の結果を報告
鉛健康診断 鉛健康診断結果報告書
(様式第三号)を提出
特定化学物質健康診断 特定化学物質健康診断結果報告書
(様式第三号)を提出
電離放射線健康診断 電離放射線健康診断結果報告書
(様式第二号)を提出
高気圧作業健康診断 高気圧業務健康診断結果報告書
(様式第二号)を提出
石綿健康診断 石綿健康診断結果報告書
(様式第三号)を提出

 

<出典>:健康診断の種類及び報告義務(厚生労働省 岡山労働局)

 

なお、2025年1月1日以降、健康診断結果報告などの電子申請が義務化されています。電子申請をこれから始める方は、以下の厚生労働省のページから各種設定などを進めてみてください。

 

<参考>:労働局・労働基準監督署への申請・届出はオンラインをご活用ください(厚生労働省)

 

健康診断結果や個人票の管理における注意点

 

健康診断の結果には、従業員の病状や体重など、デリケートな個人情報が多く含まれます。そのため、健康診断結果の管理をする際には閲覧できる人の範囲を決めて大事な個人情報を守る必要があります。

 

閲覧対象の範囲を決める際のポイントは、「なぜその人が個人票を見る必要があるのか?」という点です。たとえば、労働基準監督署への報告を行ったり、医師の意見を聴取するために産業医とやり取りしたりする担当者は、日々の業務のなかで個人票を取り扱う(閲覧権限が必要)と考えるのが自然です。

 

一方で、たとえば現場でシフト調整などを行う上司や管理職は、健康診断個人票の原本をすべて見る必要まではないかもしれません。何らかの理由で上司などへの開示が必要となる場合は、具体的な理由を添えて従業員本人の同意をとる必要があるでしょう。

 

健康診断における費用の取り扱いと相場

 

法定の健康診断について多くの企業が懸念するのが、費用面です。健康診断を適切に実施していくためには、費用面のポイントも理解しておく必要があります。ここでは、健康診断で企業が負担する費用の取り扱いと一般的な相場などを見ていきましょう。

 

健康診断の費用は企業負担である

 

法律で義務付けられた健康診断の費用は、すべて企業が支払うものです。一方、法律で義務化されていない人間ドックやオプション検査などを実施する場合は、受診した従業員本人に支払ってもらっても構いません。また、法律上において問題なければ、法定外の福利厚生などとして取り扱ってもよいでしょう。

 

<参考>:健康診断の費用は労働者と使用者のどちらが負担するものなのでしょうか?(厚生労働省)

 

企業が実施する健康診断の費用相場

 

健康診断は保険適用外の自由診療で行われるため、受診する病院・クリニックごとに料金が異なります。最も一般的な定期健康診断の場合は、従業員1人につき5,000円~15,000円ほどで実施できることが多いようです。

 

これから医療機関選びをする場合は、1人あたりの金額はもちろんのこと、予約の取りやすさや病院の立地なども含めて総合的に比較検討していくとよいでしょう。

 

健康診断の受診中における
労働時間の取り扱いについて

 

費用の関連としては、受診中の賃金や労働時間について迷うことも多いはずです。健康診断を受けている間の労働時間および給料の取り扱いの基本的な考え方は、健康診断のカテゴリごとに異なります。

 

まず、特殊健康診断の場合、会社が事業を遂行するうえで不可欠なものですから、その受診に要した時間は「労働時間」であり「賃金を支払う」のが原則です。

 

これに対して一般健康診断の場合、実施義務は会社にありますが、業務そのものとは直接的な関連がないケースが一般的です。したがって、健康診断を受診している間の労働時間および賃金の取り扱いは、労使間の協議で定めるべきものとなります。

 

ただし、健康診断をすべての従業員に受診してもらうことまでが会社の義務であることを考えると、従業員が健康診断を受けやすい仕組みの一つとして、所定労働時間内の受診では賃金カットを行わないようにするのが望ましいでしょう。

 

<参考>:健康診断を受けている間の賃金はどうなるのでしょうか?(厚生労働省)

<参考>:正社員に実施されている年1回の健康診断をパートタイム労働者は受けることができないと言われた。(日本労働組合総連合会)

 

人事労務のアウトソーシングならラクラスへ

 

本記事では、企業が実施すべき健康診断について、各種類の概要や対象者、実施時期などを詳しく解説してきました。健康診断の取り扱いについては多くの注意点があるため、人事部のなかでも負担に感じている方は多いのではないでしょうか。

 

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