退職金引当金(退職給付引当金)とは?計上方法や税務を徹底解説
本記事では、退職金引当金の概要を確認したうえで、計上方法や税務上の取り扱いにおけるポイントを解説します。また、この引当金の計上に関するよくある質問と回答も紹介していきます。これから退職金引当金の会計処理を行うために基礎知識を習得したい方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
自社で退職金制度を導入・運用する場合、経理部門や人事部門が行うべき業務に「退職金引当金(退職給付引当金)の計上」というものがあります。自社が定めた退職金制度のルールにもとづいて適切な会計処理をするためには、まず「退職金引当金」がどういったものかを理解することが重要です。
そこで本記事では、退職金引当金の概要を確認したうえで、計上方法や税務上の取り扱いにおけるポイントを解説します。後半では、この引当金の計上に関するよくある質問と回答を紹介していきます。これから退職金引当金の会計処理を行うために基礎知識を習得したい方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
なお、退職金制度の基本的な概要については下記の記事で解説していますので、こちらもあわせてご確認ください。
【関連記事】退職金制度の基礎知識|就業規則の変更手続きや給付制度の種類、労使間トラブル対処法を解説
退職金引当金(退職給付引当金)とは何か?
会計処理のなかで退職金引当金(退職給付引当金)を適切に取り扱うためには、この概念の定義や目的、法的背景を詳しく理解することが重要です。ここでは、「引当金とはそもそも何なのか?」という問いを解決したうえで、退職金引当金の基礎知識を確認していきましょう。
引当金とは
引当金とは、会社が将来的に「支出する」と予測できる大きな出費に備えて、あらかじめ準備しておく費用の見積額および会計処理のことです。引当金は、会計処理における以下2つの原則にもとづき行うものとなります。
【発生主義】費用の原因が発生した期に、その経費を計上する
【保守主義】企業の財政に不利な影響をおよぼす可能性がある場合、その事態に備えて健全な会計処理をしなければならない
たとえば、4月~翌3月を1期とする会社で、1月~6月の業績への賞与を7月に支払うと仮定します。この賞与の発生原因である業績の一部は、1月・2月・3月という「前の期」の業績が引き金になっている形です。
そこで発生主義および保守主義にもとづく会計処理を行うと、賞与の支払いという「お金のやり取りが発生したタイミング」ではなく、「原因(引き金)が発生したタイミング」で計上することが必要です。そこで生まれる「未来に発生するかも知れない支出を当期に繰り入れて準備しておくこと」が、引当金になります。
中小企業庁のホームページでは、引当金の設定要件として以下の内容を示しています。
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将来の特定の費用又は損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失とし、引当金に繰り入れなければならない。
<引用>:中小企業の会計 31問31答|引当金(中小企業庁)
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退職金引当金(退職給付引当金)の概要と計上要件
退職金引当金(退職給付引当金)とは、退職金制度の導入企業が計上しなければならない引当金および会計処理の一種です。
退職金のなかでも社歴や貢献度などの影響を受けて給付金額が決まる種類の場合、先述の例(賞与)とは異なる特徴があります。それは、退職金は将来的に「本当に発生するかわからない」点です。
このように不確実性が高いなかでも退職金に引当金の計上が求められる理由は、多くの退職金が引当金の計上要件である以下の4つにすべて該当するためです。
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① 将来の特定の費用又は損失であること。 ② 発生が当期以前の事象に起因していること。 ③ 発生の可能性が高いこと。 ④ 金額を合理的に見積ることができること。
<参考>:中小企業の会計 31問31答|引当金(中小企業庁)
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まず、退職金は「①将来の特定費用」です。次に退職金の多くはその会社で数年働くことで支給されるケースが多いことから、「②発生が当期以前の事象に起因している」ことになります。
そして、近年のように転職が一般化する時代には、退職金の「③発生可能性は高い」でしょう。最後に、退職金の計算方法は各社で定められているため、「④金額を合理的に見積もること」も可能となります。
退職給付で引当金を必要とする仕組み・
不要な仕組み
退職金引当金は、実のところすべての退職制度に対して必要というわけではありません。退職金制度には大きく分けて以下の2種類があります。
| 確定給付制度 | 確定拠出制度 | |
| 種類 | 退職一時金制度、 企業年金制度 など |
中小企業退職金共済、確定拠出年金(401k) |
| 決まっているもの | 給付金額 | 掛け金の額 |
| 処理の方法 | 会計処理のなかで 引当金を計上 |
毎月支払う掛け金を 経費処理 |
このなかで引当金を計上すべき対象は、退職一時金制度や企業年金制度などの「確定給付のみ」です。一方で確定拠出制度の場合は、毎月支払う掛け金を「会計」ではなく「経費」として処理します。そのため、確定拠出制度を採用している場合は、引当金を計上する必要がありません。
2つの退職金制度(確定給付制度と確定拠出制度)の詳細については、以下の記事でも詳しく解説しています。ぜひチェックしてください。
【関連記事】退職金制度の基礎知識|就業規則の変更手続きや給付制度の種類、労使間トラブル対処法を解説
退職金引当金の計上で用いる「原則法」と「簡便法」
退職金引当金の計上をする場合、原則法と簡便法のいずれかを用いるのが一般的です。ここでは、それぞれの方法の概要と計算式を見ていきましょう。
退職金引当金の計上で用いる「原則法」
原則法とは、退職給付に係る会計基準などで決まった原則を用いて退職給付債務を算出する仕組みです。原則法を用いる場合、将来支払う退職金の見込額のうち、当期末までに発生したことが認められる金額を割り引いて算出した退職給付債務を用います。
この場合の計算式は、以下のとおりです。
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【企業年金制度を実施している場合】 退職給付引当金=退職給付債務−年金資産−未認識債務
【退職一時金制度を実施している場合】 退職給付引当金=退職給付債務−未認識債務
<引用>:退職給付引当金(企業年金連合会)
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上記の“年金資産”とは、外部で積み立てている退職金の原資のことです。また、“未認識債務”は、計算上の差異と過去勤務費用のうち当期末時点で費用処理していない金額になります。
退職金引当金の計上で用いる「簡便法」
上記の原則法による計算は、従業員が比較的少ない小規模企業などにとって、事務負担が大きくなりがちです。また、小規模の企業で従業員がそれなりに定着している場合、退職給付の重要性が乏しかったり数理計算上の見積もりを高い信頼性をもって行なったりすることが困難かもしれません。
そこで従業員300人未満の企業に使用が許されているのが「簡便法」という方法です。
簡便法では、以下のような金額を退職給付債務として計算します。
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簡便法の場合、多くの企業が以下の計算式で退職金支給額を算出します。
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退職金引当金を取り崩すケースと会計処理の考え方
退職金引当金に関連する処理に「取り崩し」があります。ここでは、退職金引当金の取り崩しが行われる2つのケースと会計処理の基本的な考え方を紹介しましょう。
(1)退職金を支給した場合(目的取り崩し)
退職者に退職金を支給した場合に、そこで発生した費用と引当計上された金額の差額が、取り崩しを行った期の損益として処理されます。なお、国税庁では、退職給付会計に係る税務上の取り扱いについて、概要を以下のように示しています。
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退職給付会計基準によれば、退職給付費用を発生年度の費用として計上し、退職給付引当金を計上します。また、退職金は支給時に退職給付引当金から取り崩します。さらに、適格退職年金制度及び厚生年金基金制度(以下特に断らない限り、「適格退職年金等」という)のもとでは、年金財政計算により算定された拠出金額は年金資産への拠出時に退職給付引当金を取り崩します。
<引用>:退職給付会計に係る税務上の取扱いについて(法令解釈通達)(国税庁)
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(2)引当金設定の発生可能性が低下した場合
(目的外取崩)
目的外取崩とは、支払いの発生可能性が低下した場合などで選択されるものです。退職金の場合、「従業員が会社を辞めることは絶対にない」といったことは言い切れないため、発生可能性が明らかに下がるケースは少ないかもしれません。
しかし、たとえば、ある生産拠点や事業所などの閉鎖にともない数十人~数百人といった大量の離職者が出た直後は、これから支払う退職金が激減する理由から目的外取崩を行う可能性はあるでしょう。
目的外取崩をした場合、その期の収益または利益として処理されます。
退職金引当金の税務的な取り扱いと損金算入
退職金引当金は損金算入されません。ここで注意したいのは、損金算入されないのは「退職金引当金」であり、『退職金』そのものではない点です。
税務的に見ると、退職金は対象者に支払われたタイミングで損金算入されます。そのため、「会計上の費用として引当金を計上する」のと、「税務上の損金に計上すること」に、タイミングのズレがあるということになります。
なお、退職金引当金もかつては損金算入が認められていました。しかし、平成14年の税制改正により、損金に算入することはできません。ただし、この改正に伴う経過措置として、これまでの退職金引当金における取り崩しを10年に渡って処理することが決まっています。
退職金引当金における損金算入の一部例外
退職金引当金には、損金算入できるケースも一部あります。
それは、企業が確定拠出型退職給付制の仕組みを使って、退職金の積み立てを行っている場合です。具体的には、「小規模企業共済制度」や「中小企業退職金共済制度」になります。
もし退職金にかかる当月分の費用を税務的にも損金にしたい場合は、確定拠出型退職給付制のサービスに注目してみるとよいでしょう。
退職金引当金に関するよくある質問
最後に、退職金引当金に関するよくある質問とその回答を紹介しましょう。
Q.退職金引当金と退職給付引当資産の違いを教えてください。
具体的な会計処理のなかで解説すると、退職給付引当金は「将来支払う退職金のうち当期の負担に属する額を当期の費用として引当金に繰入れ、引当金の残高を貸借対照表の負債の部分に計上するもの」です。
一方で退職給付引当資産とは、この退職金引当金に相当する資産を確保していく場合に計上するものとなります。ただし、退職金引当金が必ず計上すべきものであるのに対して、退職給付引当資産は絶対に計上すべき対象ではありません。これらには、いわゆる義務と任意の違いがあるでしょう。
Q.「退職給付会計」という言葉をよく耳にするのですが、これはどういう意味を持つ概念でしょうか。
退職給付会計とは、企業の退職金に関する負債や資産を財務諸表上に適切に反映することで、自社および投資家などのステークホルダーが将来の支払いに伴うリスクを把握し、評価するうえで重要な役割を担うものです。
この記事で紹介した退職金引当金も、退職給付会計の考え方にもとづき「負債」として計上すべきものとなります。なお、退職給付会計にかかる税務上の取り扱いについては、国税庁の以下ページ内で詳しくまとめられています。ぜひチェックしてみてください。
<参考>:退職給付会計に係る税務上の取扱いについて(法令解釈通達)(国税庁)
Q.勤続3年未満の自己都合の場合、自社のルールで退職金を支給しないことにしています。この場合、引当金の計上はどのようにすればよいでしょうか。
就業規則に「勤続3年未満の自己都合退職には、退職金を支給しない」といった記載があれば、要支給額の算出から除外することが可能です。それ以外の自己都合退職金の部分だけで引当を行うようにしてください。
なお、退職金制度については、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひチェックしてください。
【関連記事】退職金制度を理解しよう!就業規則での計算方法やトラブル対処法
人事労務のアウトソーシングならラクラスへ
本記事では、退職金引当金の概要を確認したうえで、計上方法や税務上の取り扱いにおけるポイントを解説してきました。退職金引当金については多くの注意点があるため、人事部のなかでも負担に感じている方は多いのではないでしょうか。
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